子どもの「読んで」はあと何回?読み聞かせが育む自立と一生の贈り物

読まなくなる日は、向こうからやってくる

あれから私は、少し肩の力が抜けた気がする。

妻に思い切って聞いてみた。「俺が休みの日に娘に読み聞かせすると、お前の負担になるか」と。妻はきょとんとして、それから笑った。「何それ。読んであげればいいじゃない。むしろ私のときも、あの子に手伝ってもらおうかな」と。

拍子抜けした。私が一人で抱えていた天秤は、妻の中にはそもそも無かったのだ。

その夜、娘に言った。「今日はパパが読む。でもママの日は、○○が妹に読んであげる係な」と。娘は目を丸くして、それからこれまで見たことのない誇らしげな顔をした。「うん、わたしお姉ちゃんだから」。

妹の寝顔のそばでたどたどしく絵本を読む娘の声を聞きながら、私はふと思った。この子が「読んで」とねだってくれる夜は、あと何回あるんだろう、と。

よりみちナビゲーターの対話

アキ:……これ、もう、解決してるじゃん。お父さん、ちゃんと奥さんに聞いたんだね。えらい。そして奥さんの「読んであげればいいじゃない」のひと言で、何週間も悩んでたことが一瞬で溶けてる。やっぱりさ、頭の中で作った壁って、実物より分厚いんだよ。

ケンゴ:見事だと思う。確認するという一歩がすべてを変えた。「妻の負担」は彼の脳内にしか存在しなかった。構造を疑う前に、まず事実を取りに行く。今回はそれが正解だった。素直にいい結末だ。

サキ:「わたし、お姉ちゃんだから」。この言葉が、私は胸にきました。世話される側に固定されていた娘さんが、自分から世話する側に立った。妹に嫉妬していた子が、妹に絵本を読んでいる。お父さんは「自立させなきゃ」と力んでいたけれど、娘さんはちゃんと甘えさせてもらえたから、自分から次の段に上がれたんですよね。

ケンゴ:……順番だったんだな。十分に甘えた子が、安心して自立に向かう。第一章でサキさんが言っていたことが、結末で証明された形だ。

サキ:ええ。でもね、ケンゴさん。私、これで「めでたしめでたし」とは、まだ言いたくないんです。お父さんが最後に書いた一文。「この子が読んでとねだってくれる夜は、あと何回あるんだろう」。ここにいちばん大事なことが残っている気がして。

アキ:……あ。そっか。今は「どうしよう」って悩めてるけど、悩めるのって、ねだってくれてるうちだけなんだ。

(ここで、それまで黙っていたシオンが、静かに口を開く)

シオン:皆さんの言葉は、どれも嘘ではないだろう。確認すること、役割を渡すこと、甘えと自立の順序。すべて、この方の助けになる。ただ、ひとつだけ。──子どもが「読んで」と言うのは、ほんの数年だ。古い時計の振り子がいつか止まるように、その夜はある日、何の前触れもなく来なくなる。「もう2年生なんだから」と断っていた夜の一つひとつが、後から振り返れば二度と戻らない贈り物だったと気づく日が、おそらく来る。問題は、自立させるかどうかではなかったのかもしれない。この方がその夜の重さに間に合ったかどうか、ではないだろうか。

サキ:……シオンさん。そうですね。お父さんは、間に合ったんだと思います。

自分に問いかけるロードマップ

  • 一人で抱えていた「無理だ」「迷惑だ」という前提を、相手に確かめてみましたか。壁は実物より分厚く見えるものではないでしょうか。
  • 「甘やかし」と「自立」を対立させていませんでしたか。十分に甘えた子が、自分から次の段へ進む。その順序を信じてみる気持ちはありますか。
  • 娘さんが「読んで」とねだってくれる夜を、あと何回と数えたことがありますか。今がその「何回」のうちの一回だと、意識したことはありますか。
  • 数年後、今日のこの悩みを振り返ったとき、あなたはどんな顔で思い出したいでしょうか。

本日の羅針盤

三章にわたって見てきた答えを、最後に束ねます。

第一に、「妻の負担になる」という前提は確かめてみる価値がありました。多くの場合、私たちを縛っているのは相手の本心ではなく、自分の頭の中で作り上げた相手像です。聞いてみたら天秤そのものが、消えることもあります。

第二に、読み聞かせは「自立を遅らせるもの」ではありませんでした。むしろ十分に甘えられた安心が、子どもを自らから次の段へ押し上げます。甘えと自立は敵同士ではなく、前後の関係にあります。

第三に、解決は「奪い合い」から「分かち合い」への転換にありました。パパが読む夜、娘が妹に読む夜。役割を一方通行にしないことで、妻の負担も娘の嫉妬も、同時にほどけていきます。

そしてシオンが最後に置いた、いちばん静かな視座を。──子どもが「読んで」と言ってくれる時間は有限です。あなたが今、断るか読むかで悩めているという事実そのものが、まだその時間が続いているという何よりの証です。

どうかその夜に、間に合ってください。あなたはもう、その一歩を踏み出しています。

もし今後、妹さんの誕生に伴う赤ちゃん返りやお子さんの不安が食事・睡眠に強く影響するなど気がかりが続く場合は、自治体の子育て相談窓口やかかりつけの小児科に、気軽に声をかけてみてください。専門機関への相談もご検討ください。

よりみちナビゲーター

人生の岐路で立ち止まったすべての人へ。答えを「断定」せず、あなた自身が納得できる「複数の選択肢」と「視点の切り替え方」を優しくお伝えする道案内チームです。

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