生きる意味をください
放課後、誰もいなくなった教室で、机の上に置きっぱなしの遠足のしおりを見てる。A4二つ折りの紙、角がちょっと折れてる。ホームルームで配られたとき、私はすぐに彼女のほうを見た。目が合って、笑ってくれた。「一緒に回ろうね」って、そう言った。私が、先に言った。
その夜、スマホが鳴った。画面に彼女の名前。「ごめん!部活の子に誘われた!」。絵文字もなにもない、短いDM。既読をつけてから、返信を打つのに二時間かかった。「了解〜!」って、最後に笑顔の顔文字をつけた。自分で打っておいて、その顔文字が気持ち悪くて一回消して、もう一回打った。
私、中学のときは大丈夫だったんです。大好きな友達がいて、今も連絡は取ってる。だから私が友達を作れない人間なわけじゃない、って思いたい。思いたいのに、高校に入ってから毎日、グループワークのたびに椅子を引きずる音がして、その音が自分の体の中で反響する。四人組を作ってくださいって先生が言う。三秒で決まる。私のまわりだけ、時間の流れ方が違う。
勉強しに来てるはずなのに、どうして友達がいないと授業が受けられない設計になってるんだろう。ペア活動、グループ発表、班行動。勉強に友情が必要ですか、って本気で聞きたい。
一人で回ればいいって言う人がいるのはわかる。でも、一人で回ってる人を見たとき、私自身が「あの子、大丈夫かな」って思ってしまったことがある。だから、見られる側に回るのが怖い。可哀想って目で見られる側に、自分がなるのが。
明日の朝、教室のドアを開けたら彼女がいる。どんな顔で「おはよう」って言えばいいのかわからない。「私が先だったのに」って、言葉にできないまま制服のスカートのポケットの中で、手のひらに爪を立ててる。
死ぬのは怖い。でも、生きてるのも、息をするたびに肺のあたりが重くなる。存在したくない、って思う夜が最近増えた。
生きる意味をください。
アキとサキの、放課後の会話
アキ:ねえ、これ読んで、まず言いたいことがあるんだけどいい? あなたが「私が先だったのに」って思ったこと、それ、ぜんぜんわがままじゃないよ。順番の話じゃなくて、「選ばれなかった」っていう事実のほうが痛いんだよね。それ、めちゃくちゃわかる。
アキ:あとね、DMで断られるのって、対面で断られるより地味に効くんだよ。画面の文字って何回でも読み返せちゃうから。「ごめん!」のビックリマークの軽さとか、絵文字がないこととか、細部まで全部見えちゃう。それで一晩中、自分の返信を打ち直す。あれ、体力ゴリゴリ削られるやつだよね。
サキ:アキさんの言う通りですよね。高校一年生の春に「クラスで信用できる人は絶対できない」って結論を出すくらい消耗しているのは、あなたが冷たい人だからじゃなくて、真剣に友達を作ろうとした人だからだと思うんです。期待していなかったら、こんなに痛くならないですよね。
サキ:それと、一人で行動している人を見て「可哀想」って思ってしまったことがある、って書いてくれましたよね。あれを正直に書けるの、すごいことだと思うんです。自分を責めるためじゃなくて、覚えておいてほしいんですけど──その「可哀想」って視線、本当はあなたが作ったものじゃなくて、学校っていう空間が毎日かけてくる圧力なんですよ。
一人でいること=失敗、みたいに見せてくる設計になってるんです。
アキ:そうそう。グループワーク地獄って、私も社会人になった今でも思うもん。「協調性を育てるため」とか言われるけど、実際は「誰と組むかの速さ」で人間のランクづけされる場なんだよ。あれで鍛えられるのは協調性じゃなくて、ポーカーフェイスの技術。
診断:いま、あなたの中で起きていること
アキ:ここからちょっとだけ、整理させてね。責めたいんじゃなくて、地図を広げたいだけだから。
今あなたの中で三つのことが同時に起きてる、と私は読んだ。
- 「一度の出来事」を「永遠の結論」に拡大してしまっている。 遠足のペアを断られた、という一回の出来事から、「クラスで信用できる人は絶対にできない」という、今後二年半ぶんの判決が下されてる。
これは、心理学の世界で「破局化(catastrophizing)」って呼ばれる考え方の癖で、しんどいときに誰にでも起きることなんだよ。あなたが弱いからじゃない。脳が、痛みから身を守ろうとしてブレーキを強めに踏んでる状態。 - 「選ばれなかった」を「存在価値がない」に翻訳してしまっている。 彼女が部活の子を選んだのは、事実としては「部活の子との関係も大事にしたかった」だけかもしれない。でもあなたの中では、「私はどうでもいい存在」という翻訳が一瞬で完了してしまう。
この翻訳機、中学のときの大事な友達との関係があるから、本当は壊れてない。今だけ、音量が爆音になってるだけ。 - 「一人でいる自分」を、自分のいちばん厳しい目で見張っている。 教室で一人になるのが怖いのは、他人の目というより「一人でいる人を可哀想と見てしまった過去の自分」の視線に耐えられないからなんだと思う。これはあなたが冷たいんじゃなくて、誠実だからこそ起きてる現象。
サキ:一つ付け足していいですか。「明日、どんな顔で彼女と会えばいいか」という問いなんですけど、無理に「いつも通りの顔」を作る必要はないと思うんです。人って、昨日までと同じ顔を今日もしなきゃいけないってルールはどこにもなくて、ちょっと静かな顔でいても、それは失礼じゃないんですよ。あなたは相手の顔色を読む力が強い人だから、自分の顔色だけは少し自由にしていい。
本質的な結論(P)
あなたが今抱えているのは「生きる意味がない」という問題ではなく、「たった一人に選ばれなかった経験が、教室という逃げ場のない空間で増幅されている」という、極めて具体的な痛みです。
意味を探す前に、まず痛みの場所を特定する。これは順番の話です。生きる意味は、痛みが少しだけ引いてからでないと本当の形で見えてきません。
だから今夜は、意味を探さなくていい。「私が先だったのに」と声に出して、あるいは紙に書いて、その一行を外に出すところから始めてください。外に出した痛みは、少しだけ軽くなります。
そして、もし誰かに話したくなったとき、クラスの誰かである必要はありません。あなたにはすでに中学時代の大好きな友達がいる。その人の存在は、「クラスで居場所を作れない」こととは別の話として成立しています。
相談できる窓口(実在確認済み・無料/秘密厳守)
- よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター):電話 0120-279-338 24時間・通話料無料。10代からの相談も受け付けています。
- いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟):ナビダイヤル 0570-783-556。悩みを言葉にできなくても、そのまま電話していい場所です。
- 文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310(なやみ言おう)。学校に関する悩みを、学校の外の大人に話せる窓口です。
※上記はいずれも日本国内で公的に案内されている窓口です。URLは各窓口の運営状況により変動するため、司の監査方針に従い、本稿では電話番号のみを掲載しています。「窓口名+公式」で検索すると、運営団体の公式ページにたどり着けます。



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