「あの嘘」を抱えたまま、それでも明日を生きていくために
あれから、季節がいくつか巡りました。
正直に言うと、まだ完全に楽になったわけではありません。ふとした瞬間に、おばあさまの病室の白い天井とか、シフトを代わってもらったあの日のバイト先の照明とか、そういうものが頭をよぎります。そのたびに胸の奥がきゅっと縮こまる感覚があります。
でも、前ほど眠れない夜は減りました。「私のせいだ」と思いそうになったとき、「それは違うんじゃないか」と自分で自分に言い返せる日も、少しずつ出てきました。
ただ、ひとつだけ、まだわからないことがあるんです。この出来事を私はこれからの人生で、どう扱っていけばいいんでしょうか。忘れたほうがいいのか、それとも覚えておくべきなのか。この嘘を、私はどこに置いて生きていけばいいんでしょうか。
よりみちナビゲーターの対話
サキ:少し、楽になられたんですね。「自分で自分に言い返せる日が出てきた」――それを読んで、私、ほっとしました。胸が縮こまる感覚は、まだ残っているかもしれない。でも、あなたはもうその感覚に飲み込まれるだけの人ではなくなっているんですよ。
ケンゴ:「忘れるべきか、覚えておくべきか」。いい問いだ。私の答えは、はっきりしている。忘れる必要はない。むしろ、覚えておいたほうがいい。ただし「罪の証拠」としてではなく、「自分を変えたきっかけ」としてだ。きみはあの嘘を通して、「言葉を軽く扱ってはいけない」と骨身に染みて学んだ。これはきみの人生にとって、無駄な経験じゃない。むしろ財産だ。覚えておけばいい。そしてそれを次に活かせばいい。
サキ:ケンゴさんのおっしゃること、私も賛成です。ただ、ひとつだけ付け加えさせてください。「財産」とか「活かす」という言葉は、少し力が要る言葉でもあるんです。あなたは今、やっと眠れる夜が増えてきたところ。だから無理に「この経験を意味あるものにしなきゃ」と気負わなくていいと思うんです。ただ、引き出しの奥にそっとしまっておく。必要なときに、ふと取り出して眺める。それくらいの距離感で、十分なんじゃないでしょうか。
ケンゴ:……それは、確かにそうだな。サキの言う通りだ。私はつい「活かせ」「次へ」と前のめりになる。だが、まだ傷が乾ききっていない人にそれを急がせるのは酷だ。引き出しの奥にしまっておく――その距離感のほうが、今のきみには合っているのかもしれない。訂正する。覚えておけばいい。ただし、急いで意味づけしなくていい。それが私の今の答えだ。
サキ:ありがとうございます、ケンゴさん。あのね、私が思うのは――あなたが今もおばあさまやおばさまのことを、白い天井ごとバイト先の照明ごと、こうして覚えている。それ自体が、お二人を忘れていないということなんです。あなたが胸を縮こまらせるたびに、お二人はあなたの中でちゃんと生きている。それは罰なんかじゃない。つながりなんだと思います。
シオン:……人は、過ちを抱えて生きる。抱えたものは、消えはしない。けれど抱え方は変えられる。最初は両手で胸に押し当てて息も苦しいほどに抱えていたものが、やがて片手で持てるようになり、いつか懐に収まるほど小さくなる。重さが変わったのではない。あなたがそれを抱えて歩く力を、少しずつ身につけたのだ。あの嘘はあなたを苦しめるためにあったのではなく、あなたをより深く人を思いやれる人にするため、そこにあったのかもしれない。
自分に問いかけるロードマップ
これからの日々を、自分のペースで歩んでいくために。
- この経験を、私は「一生背負う罰」として持つのか、「人を大切にする理由」として持つのか。どちらの持ち方が、私を前に進ませてくれるだろうか。
- 胸の縮こまる瞬間が来たとき、私は自分に何と声をかけてあげられるだろうか。
- お二人とのつながりを感じる、私なりの方法は何だろうか。お墓参り、好きだった食べ物、思い出の場所――どんな形でもいい。
本日の羅針盤
最後に、はっきりとお伝えします。お二人が亡くなったのはあなたのせいではありません。言葉が人の命を縮めることはありません。これは三章を通して、変わらない結論です。
そのうえで、「あの嘘をどこに置いて生きるか」という問いには、一つの正解はありません。ケンゴは「覚えておけ、ただし急いで意味づけしなくていい」と言い、サキは「引き出しの奥にそっとしまっておけばいい」と言い、シオンは「抱え方は、時間とともに変えられる」と言いました。
どの言葉が今のあなたの体温にいちばん近いか――それはあなた自身が決めることです。忘れなくていい。覚えていることは、お二人を大切に思い続けることでもあるのですから。
あなたはすでに、自分で自分に「それは違う」と言い返せるようになりました。眠れる夜が増えてきました。その歩みを、どうか信じてください。あなたは十分に、誠実に、この出来事と向き合ってこられたのです。
もしこの先、再び自分を強く責める気持ちが戻り、日常がつらくなるようなことがあれば、そのときはひとりで抱えず、グリーフケアや心の相談窓口に声を届けてみてください。あなたが穏やかに眠れる夜を、これからも重ねていけますように。




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