39歳、5歳下の職人見習いに惹かれて。「答え合わせ」をやめた夜から始まること

彼は「誰が来るんですか」と訊かなかった

三十九になって、まだこんなことで胸が騒ぐとは思っていませんでした。

勤めているのは、駅から二十分ほど離れた古い和菓子屋です。私は店番と伝票の整理をしています。気になっているのは、この春に入ってきた職人見習いの彼です。三十四歳、前はトラックに乗っていたそうで、餡を炊く釜の前に立つ背中はまだ少し頼りない。私より五つ下です。

作業場で、よく話します。粉のついた手で「これ、味見してください」と割れた最中を差し出してくる。たまに短いメッセージも送り合います。

昨日、店を閉めたあと、私は思い切って声をかけました。明日の仕込みが早くなかったら、これから何か食べに行きませんか、と。彼は四時起きだと言いながら、行きますと答えました。

本当は、パートの二人も誘うつもりでいたのです。ひとりは法事、ひとりは子どもの熱で、結局ふたりになりました。私は彼に、誰かと行くともふたりだけとも言っていません。彼はどう思ったでしょうか。「他に誰か来るんですか」とは訊かれませんでした。私なら気まずい相手に誘われたら、必ず訊いてしまう。訊かなかったのは、気まずくないということでしょうか。それとも、ただ訊けなかっただけでしょうか。

駅裏の中華屋で、彼は自分のことをいろいろ話してくれました。いつか軽トラを改装して甘味を売りに回りたい夢まで。好かれているとは思っていません。ただ、少しは気を許してくれていると受け取っていいのでしょうか。

中学生みたいな質問だと笑わずに、答えをいただけたらうれしいです。

よりみちナビゲーターの対話

アキ:笑わないよ。三十九でも五十九でも、送ったメッセージのあと画面を伏せて、五分後にまたひっくり返す時間は同じだからね。中学生の質問じゃなくて、人を好きになった人の質問だよ、これ。

サキ:割れた最中を差し出してくる場面、いいですね。あれ、誰にでも渡すものではないですよね。売り物にならないものを分ける相手って、店の中でだいたい決まっていますから。

ケンゴ:情報を整理させてほしい。「彼が訊かなかった」という事実から読み取れることは、実はほとんどない。気まずくないから、訊く必要を感じなかったから、訊くのが失礼だと思ったから、単に頭が回っていなかったから。訊かなかった理由は、どれであっても成立する。四時起きの前日の夜だ。判断力は落ちている。

アキ:ケンゴさんの言うことも分かる。ただ、そこは頭より身体を見たいな。四時起きの人が閉店後に「行きます」って言って、レバニラを食べて、削った睡眠の分だけ差し出してるんだよね。理由は本人にも説明できないと思う。でも、体はもう答えを出してる。

ケンゴ:アキさんの感覚も分かる。ただ、私が引っかかるのはそこではない。彼女は店番と伝票を握っている側で、彼は今年入った見習いだ。年齢も五つ下。断りにくい構造の中で出た「行きます」なのだという自覚は、持っておいた方がいい。逆算すれば、彼の就寝時刻は本来二十一時台だ。その一時間半を好意で渡したのか、立場で渡したのかはまだ分からない。

サキ:構造のお話は分かります。ですけど、断りにくい人ってあんなに自分のことを話しませんよね。軽トラを改装して甘味を売りに回りたいなんて、笑われるかもしれない話です。義務で座っている人は、笑われない話しかしないと思います。

ケンゴ:……それはたしかに反論しにくい。

サキ:ところで、「気を許してくれていると受け取っていいのでしょうか」という訊き方が、私は少し気になりました。受け取っていいかどうかを、どうして他の誰かに許可してもらう必要があるでしょう。夢の話を聞かせてもらった夜の出来事は、もうあなたのものですよ。

アキ:そうそう。あと言っておくと、「他に誰か来るんですか」って訊いちゃうのはアキさん側の癖だからね。世の中には、誰が来るかなんて気にせず店に入れる人が普通にいるんだよ。自分の物差しで相手の沈黙を測ると、だいたい重く出る。

自分に問いかけるロードマップ

  • 彼が「訊かなかった理由」を突き止めたら、あなたは次に何をするつもりでしょうか。答えが出たあとの行動を、まだ決めていないのでは。
  • あなたが本当に確かめたいのは彼の気持ちですか。それとも、自分が誘ってよかったのだという安心ですか。
  • あなたと彼のあいだには、店の作業場という場所があります。仮に何も進まなかったとき、あなたはそこで彼の隣に立ち続けられますか。
  • 五つ下という数字を、あなたは何回数えましたか。彼は一度でも数えたでしょうか。

本日の羅針盤

アキから:向こうが差し出した睡眠時間を、正しく受け取っておいて。証拠を集めるより、次に「また行きませんか」と言えるかどうかだよ。

ケンゴから:立場の差がある関係では、誘う側が退路を用意するのが礼儀だ。「都合が悪ければ流してください」のひと言を添える。それでも来る人は、本当に来たい人だ。

サキから:割れた最中を渡される関係は、それだけでもう悪くないものですよ。名前をつけるのを急がなくても、あの中華屋の湯気は残ります。

答えは一本にまとめません。三人の言葉のうちあなたが今夜いちばん抵抗を感じたものが、たぶんいちばん近いところにあります。

よりみちナビゲーター

人生の岐路で立ち止まったすべての人へ。答えを「断定」せず、あなた自身が納得できる「複数の選択肢」と「視点の切り替え方」を優しくお伝えする道案内チームです。

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