「ドジ」という名の冤罪。なぜ人前で手が震えるのか?注意のレバーを切り替える心の処方箋

「ドジ」という名の冤罪 ―― 見られる前で、なぜ私の手は震えるのか

自分でも認めてしまうけれど、私は根っからの「ドジ」だ。能力がないわけじゃない、と思いたい。やろうと思えばできることなのに、いざその場になるとなぜか手元が狂う。
コップを倒す。書類を取り落とす。段差でもない場所でつまずく。それも決まって、人の目が多いときほどひどい。
普通の人なら何事もなく終えるはずのことを、私は高い確率で失敗してしまう。努力でどうにかなるものなら、とっくに直している。これはもう「運」みたいなもので、一生治らないんじゃないか。毎日、恥ばかりかいて本当に困っている。誰か、助けてほしい。

よりみちナビゲーターの対話

ケンゴ:まず、ひとつ整理させてくれ。あなたは「能力はある」と書いている。これは大事な一文だ。つまり問題は「できるかどうか」ではなく、「見られているときに、いつも通りにできないこと」だろう。だとすれば、これは運でも生まれつきの性質でもない。緊張下でのパフォーマンス低下という、ごく構造的な現象だと思う。

アキ:ケンゴさんの言うこと、わかるよ。でもね、いきなり「構造です」って言われると、ご本人ちょっと置いてけぼりになっちゃう気がするんだ。だってさ、毎日恥かいて「困ってる」って書いてるんだよ。まず、人前で手が震えるあの感じ、心臓がぎゅっとなってもう自分の体なのに言うこと聞いてくれないあの感覚を、ちゃんと「つらいよね」って認めてあげたい。

ケンゴ:それも一理ある。ただ、共感だけで終わるとあなたは明日、また同じ場所でつまずく。私が構造の話をするのは、突き放したいからじゃない。「運だから治らない」と思い込んでいる限り、打つ手がゼロになるからだ。運じゃないとわかれば、手は打てる。
たとえば注意が「作業」ではなく、「見られている自分」に向いている。そこをただすだけで、失敗率は変わる。これは私の管理職としての実感でもある。緊張で報告を噛む部下ほど、内容より「噛んだらどうしよう」を見ている。

サキ:そうですね。ただ、私は少し違って感じていて。ご本人が本当に困っているのは、失敗そのものより「恥ずかしい」という気持ちのほうじゃないかしら。干したタオルを取り込むみたいな何でもない動作でも、誰かに見られていると思った瞬間、急に指がこわばる。あれって失敗が問題なんじゃなくて、「失敗した自分をどう見られるか」が怖いんですよね。だとしたら直すべきは手元じゃなくて、その「恥」の置き場所なのかもしれません。

アキ:あー、それだ。サキさんの言うの、すごくしっくりくる。「ドジ」って自分にラベル貼っちゃってるんだよね。一回貼ると、失敗するたびに「ほら、やっぱり私はドジだから」って証拠集めしちゃう。本当は十回のうち六回うまくいってても、四回の失敗だけカウントしてる。

ケンゴ:……そこはアキの言う通りかもしれない。私は「構造を変えれば繰り返さない」と言ったが、その前提として自分への過剰なラベルを一度はがす必要がある、ということだな。冷静に記録を取れば「高い確率で失敗」が本当なのか、それとも失敗だけが記憶に焼きついているのか見えてくるはずだ。

サキ:ええ。それに人前でのこわばりが日常生活に支障をきたすほど強く続く場合は、ご自身を責める前に一度専門機関に相談してみるのもひとつの道だと思います。「ドジ」の一言で抱え込まなくていいんですよ。

自分に問いかけるロードマップ

  • その失敗は本当に「いつも」起きているのか。それとも「見られているとき」に偏っていないか。
  • 自分が「ドジだ」と確信した、いちばん古い記憶はいつのものか。誰の前での出来事だったか。
  • 失敗した直後、私はまず「作業の続き」を見ているか、それとも「周りの視線」を見ているか。
  • もし親しい友人が同じ失敗をしたら、私は「お前はドジだ」と言うだろうか。

本日の羅針盤

ケンゴは「これは運ではなく構造であり、注意の向け先を変えれば手は打てる」と説きました。アキとサキは「まずは恥の感覚を認め、自分に貼った『ドジ』というラベルを一度はがすこと」を促しました。三人の言葉は、どれが正解というものではありません。

ただ、共通しているのは一点です。あなたの問題は「能力」ではなく、「見られている自分」へ注意が奪われることにある、という見立てです。運命でも、生まれつきでもない。であればそれは観察し、扱える対象です。今日、いきなり手が震えなくなる必要はありません。まずは一週間、失敗した数と同じだけ「何事もなく終えた数」も数えてみてください。あなたが「冤罪」を着せていた自分の手は、思ったよりちゃんと働いているはずです。

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