「頑張る私」と「だらける私」を同じ椅子に座らせる ── 真面目な人のゆるみ方入門

第三章 スイッチが切れない夜に ── 「真面目さ」を責めずに緩める方法

第二章を読んで、私はメモアプリに箇条書きでまとめた。「雑な一言を差し込む」「小さく頼る」「役職と素を同居させる」。よし、明日からやってみようと思った。

でも、火曜日の朝、サークルの集合場所に着いた瞬間、私はまた背筋を伸ばしていた。後輩に「おはよう」と言いながら、頭の中ではもう今日の段取りを組み立てていた。
「あー、朝ごはんヨーグルトだけだったわ」なんて言葉、出てこなかった。出そうとした瞬間、なんだか「わざとらしい」気がして、喉のところで止まった。

夜、布団に入ってから思った。私たぶん、力の抜き方を知らないんじゃない。力を抜くこと自体に、罪悪感があるんだ。

1. 「わざとらしさ」の正体

アキ:これ、めちゃくちゃ「あるある」だから先に言っとくね。新しい振る舞いを試そうとすると、最初は絶対「わざとらしい」って感じる。これはもう、避けられない。

シオン:長年身につけてきた振る舞いが「自然」と感じられるのは、慣れているからにすぎない。新しいものを不自然に感じるのは、それが新しいからであって間違っているからではないのかもしれない。

アキ:そうそう。「わざとらしい=やめたほうがいい」じゃないんだよね。むしろ「わざとらしい=今、自分の枠を広げてる最中」のサイン。
例えるなら、新しい靴を履いた初日って絶対歩きにくいじゃん。でも、それで「やっぱり古い靴がいい」って戻ったら、永遠に新しい靴は馴染まない。

サキ:そうですね。私も育児を始めた頃、「お母さんらしく振る舞う」のが本当にぎこちなくて、自分で自分の声に違和感がありました。不思議なものでぎこちなく続けているうちに、いつの間にかそれが普通になっていったんです。違和感の中で続けることに、意味があるんですよね。

2. 「力を抜くことへの罪悪感」と向き合う

アキ:でも、相談者さんが本当に引っかかってるのはたぶん、「わざとらしさ」より深いところにある。「力を抜いていいのか」っていう、もっと根本的な迷い。

サキ:真面目に取り組むことが、どこかで「正しいこと」として刻み込まれているのかもしれません。だから、抜くこと=怠けること、ゆるむこと=価値が下がることと感じてしまう。

アキ:これね、たぶん高校までの部活とか、もっと前の家庭環境とかで、「ちゃんとやる私」が周りから喜ばれた経験が積み重なってるんだと思う。だから「ちゃんとやらない私」を出すことに、本能的にブレーキがかかる。

シオン:過去のあなたを守ってきた鎧を、いきなり脱ぐ必要はないだろう。鎧の隙間に小さな風通しを作る。それくらいでちょうどいいのかもしれない。

アキ:うん。だから力を抜くことに罪悪感があるなら、まず「罪悪感ごと許す」っていうのが最初。「あ、今、罪悪感あるな」「でも、これは新しい靴を履いてる最中だからな」って、自分に実況してあげる感じ。罪悪感を消そうとすると逆に強くなるから、消さなくていい。

3. 「がんばらない練習」を、一人の場所から始める

サキ:もしサークルの場でいきなり力を抜くのが難しいなら、もっと安全な場所から練習するのもいいですよね。誰も見ていない、自分一人の時間から。

アキ:それすごく大事。例えば、

  • 休日に予定を入れない日を、月に一日だけ作る
  • 洗濯物を畳まずにカゴに入れたまま一晩過ごしてみる
  • 「今日やるはずだったこと」を一個だけ、わざとやらずに寝る
  • カフェで勉強道具を持たず、ただぼーっとする

こういう、誰にもバレない「小さなサボり」を自分に許可する練習。これができるようになると、人前で力を抜くのも少し楽になる。

サキ:家で完璧に過ごせない人が、外で完璧に力を抜けるはずがないんですよね。順番として、まず自分との関係を緩めてから人との関係を緩める。そのほうが自然だと思います。

シオン:自分に対して厳しい人は、他人から厳しさを期待されているように感じやすいのかもしれない。けれどそんな期待、もしかすると誰も差し向けていないものかもしれない。

4. 「変わらなくてもいい」という最後の逃げ道

アキ:ここまでさんざん「ゆるみ方」の話をしておいてなんだけど、最後にひとつだけ、大事なこと言わせて。
もし、いろいろ試してみて、それでもどうしても力が抜けないとしたら。それはそれでいいんだよ。

サキ:そうですね。真面目さは欠点ではないですから。

アキ:うん。「やる気があるように見える私」のままでも、別に人生終わらない。むしろそれを必要としてくれる場所は絶対にあるし、その真面目さが信頼になって人を呼んでくることもある。

相談者さんが今感じてる違和感は大事にしていいけど、「直さなきゃいけない欠陥」ではない。「もうちょっと、こうだったらいいな」っていう、未来の自分への小さなリクエスト。それくらいの距離感で付き合っていけばいいんだと思う。

シオン:変わろうとする努力と、今のままでいる自分への許し。その両方を同時に持てる人は、どちらの方向にもゆっくり進んでいけるのではないだろうか。

5. 卒業後を見据えて

アキ:最後に、相談者さんは大学四年生だから、もうすぐ環境がガラッと変わるよね。社会人になると、人間関係のリセットが一回起きる。これ、実はチャンスでもあるんだ。

新しい職場では、誰もまだ「nさん=やる気の塊」っていうラベルを持ってない。だから最初の三ヶ月くらい、意識的に「ゆるい一面」を先に出しておく。真面目さは後からどうせバレるから、先にゆるさを見せておく順番。

サキ:これは本当に効きますよね。最初の印象で「ちょっと抜けたところもある人」と思ってもらえると、その後の関係が驚くほど楽になります。

アキ:大学のサークルで完璧な答えを出す必要はない。今の場所で少しずつ練習しながら、次の場所では最初から違う見せ方を試してみる。人生は何回でも、自己紹介をやり直していい。

第三章の結論:力の抜き方が分からないのは、あなたが不器用だからではなく、「真面目な自分」が長年あなたを守ってきた証拠です。
鎧を脱ぐ必要はありません。鎧に、小さな風穴を開ける程度で十分。新しい振る舞いに感じる「わざとらしさ」は、変化の途中にいるサインであって間違いの合図ではありません。
そしてもし最後まで変われなくても、それはそれで大丈夫。あなたの真面目さを必要としてくれる人は必ずいます。変わる努力と、変わらない自分への許し。その両方を、同じ手のひらに乗せてあげてください。

※もし「人にどう見られるか」「真面目にやらなければ」という思いが強すぎて、休んでも休まらない、眠れない、気持ちが沈むといった状態が続く場合は、大学の学生相談室や心療内科、地域の相談窓口など、専門家の手を借りることも考えてみてください。一人で抱え込まなくていい場所は、ちゃんとあります。

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