第二章 ——「返事」の向こうにあるもの
よりみちナビゲーターの対話(続)
サキ: 前の章で、あなたのためらいは相手を大事に思う気持ちの裏返しだというお話をしました。でも今日は、もう少しだけ奥に踏み込ませてください。あなた、「元気かどうかだけ知りたい」とおっしゃいましたよね。本当にそれだけでしょうか。元気だと分かったら、それで手帳を閉じて、また日常に戻れますか。
(相談者) ……正直に言うと、わかりません。元気かどうか知りたい、それは嘘じゃないんです。でも、その先に何を望んでいるのか、自分でもうまく言えなくて。だから余計に怖いのかもしれません。何かを期待している自分が、いやらしく思えて。
サキ: いやらしい、なんてことはないですよ。十年ぶんの気持ちが、たった一行の「元気ですか」に全部収まらないのは当たり前のことです。収まりきらないから、あなたは何度も画面を開いては閉じている。それは欲深さじゃなくて、まだ気持ちが生きている証拠なんだと思います。
ケンゴ: そこは私も同じ見方だ。ただ、私はあえてその「先」について現実的な話をさせてもらう。連絡をして、彼から返事が来たとする。その次に何が起きるか、あなたは考えておいたほうがいい。会うことになるかもしれない。あるいは数回やり取りをして、また自然に途切れるかもしれない。十年前のあの頃とまったく同じ関係が戻ってくると期待すると、そこで足をすくわれる。人も、時間も、もう別の場所にいる。
サキ: ケンゴさんの言うことも分かります。ただ——「同じ関係は戻らない」という言い方は、少し冷たく響きませんか。私はむしろ、同じでなくていいと思うんです。十年前の二人には戻れなくても、四十を過ぎた二人として、あるいは今のお互いとして、新しく交わることはできる。過去の続きじゃなくて、別の物語のはじまりとして。
ケンゴ: ……その通りだ。私の言い方は、守りに偏りすぎていた。訂正する。私が言いたかったのは「幻を追うな」ということで、「望むな」ということではない。むしろ、過去そのままを求めないほうが、今の彼と今のあなたが、素直に向き合える。そういう意味では、サキの言うことのほうが正しい。
シオン: ——ふたりの話を聞いていて、ひとつ思い出したことがある。人は失くしたものを取り戻そうとするとき、たいてい「あの頃」を取り戻そうとする。けれど本当に戻ってくるのはあの頃ではない。いまのあなたがあの頃をどう抱きしめ直すか、その仕方だ。彼に連絡するというのは、彼を取り戻すことではないのかもしれない。十年間、彼を思い出し続けたあなた自身をあなたが認めてあげることなのではないだろうか。
自分に問いかけるロードマップ
- 私が本当に確かめたいのは「彼の無事」だろうか。それとも「あの十年間、彼を思い続けた自分の気持ちは間違いではなかった」という、自分自身への答え合わせだろうか。
- もしショートメールに返事が来なかったとして、私はそれを「拒絶」と受け取ってしまうだろうか。それとも「番号が変わっていただけ」と、静かに受け止められるだろうか。その心構えが今の私にはあるだろうか。
- 十年前の二人に戻ることを望んでいるのか。それとも今のお互いとして、あらためて出会い直すことを望んでいるのか。この二つは、まったく違うものだ。
- 連絡をするにせよ、しないにせよ、その選択のあとで自分を責めずにちゃんといられるだろうか。
本日の羅針盤(第二章)
第一章では「配慮のある一言なら、それは贈り物になる」とお伝えしました。第二章で見えてきたのは、その一歩手前にあるもっと個人的な問いです。
あなたが握っているのは、彼への連絡先であると同時に十年間そっと灯し続けてきた——いえ、この言葉は使わないと決めていましたね。言い直します。十年間、あなたが手放さなかった気持ちそのものです。
サキは「同じでなくていい、新しく交わればいい」と言いました。
ケンゴは、幻を追わないほうがかえって素直に向き合えると言い、自らの守りの姿勢を正しました。
シオンは、連絡とは彼を取り戻すことではなく、思い続けた自分を認めることかもしれないと静かに置きました。
だとすれば、こう考えることもできます。彼から返事が来るかどうかであなたの十年の価値が決まるわけではない、と。返事が来れば、それは新しい出会い直しのはじまり。来なければ、あなたはただ「気持ちを届けた」という事実を手にして、静かに前へ進める。どちらに転んでも、あなたが十年間その人を大切に思い続けたという事実は少しも損なわれません。
連絡することのゴールを「返事をもらうこと」ではなく、「自分の気持ちに区切りをつけること」に設定してみる。そうすると、惣菜を前に止まっていた箸が少しだけ動くかもしれません。
もし、「思い出しては気にしてしまう」状態が眠りや食事に影を落とすほど続いている場合は一人で抱え込まず、身近な相談窓口や専門機関への相談もご検討ください。




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