人間関係をバッサリ切ってしまう自分に自己嫌悪…それは「逃げ癖」ではなく限界のサインです

第二章 「優しいから」と呼ばれた日から

切ることしか手段がない人の、手の中身

一章を読んで、思い出したことがあります。高校の頃、担任に「あなたは我慢ができる子だから、この班をまとめて」と言われました。うれしかったんです。あのとき初めて、自分に役割がついた気がしました。
今の職場で「優しいから聞いてくれるでしょ」と言われたとき、断れなかったのはたぶん、あのときの言葉と同じ形をしていたからだと思います。断ったら私には何も残らない気がして。

よりみちナビゲーターの対話

アキ:うわ、これ、めちゃくちゃ大事な記憶が出てきたね。「我慢ができる子だから」って、褒め言葉の形をした業務命令なんだよ。ほんとに厄介なのが、言われた側は嬉しいってこと。私も新人の頃、「アキさんは頼みやすいから」って言われて残業引き受け続けて、三か月で肩甲骨のあたりが石みたいになった。あれ、断ると人格ごと否定される気がするんだよね。役割を返上したら自分が空っぽになるみたいな。

ケンゴ:そこだ。第一章で私が言った「席」というのは、まさにその構造のことだ。
具体的に言おう。あなたは今、二つのものを一つに束ねて扱っている。「相手の要求」と「相手からの評価」だ。愚痴を聞くという行為を断ると、優しい人という評価まで一緒に失うと感じている。
だが実際には、この二つは分離できる。「今日は聞けないけど、明日の昼なら十分だけ」と言うのは、要求を断って評価を保つ操作だ。ゼロか百かではなく、「十分」という単位を持てばいい。

サキ:ケンゴさんのおっしゃることは、方向としては正しいですね。ただ、それは実際に口から出せる言葉でしょうか。私も似た場面がありました。取引先から夜十時にメッセージが来て、「明日でも大丈夫ですか」と打っては消し、打っては消して、結局その場で返信したことが何度もあります。文章にすればたった十七文字なんですよ。それが言えないのは意志が弱いからではなくて、言った後に降ってくる沈黙が怖いからですよね。

ケンゴ:……サキさんの指摘は、痛いところを突いている。私は「言えばいい」と言ったが、言った後の三秒を引き受ける体力の話を飛ばしていた。訂正する。まず必要なのは言葉ではなく、その三秒に耐えられる余力かもしれない。

アキ:あとね、この相談者さんの場合、もう一個からくりがあると思う。「優しいから」って言ってくる人と、「そういうとこなんだよね」って言ってくる人。一見、真逆でしょ。でも私は同じ種類だと思ってる。どっちもあなたを、自分の都合のいい形に定義してきてるんだよ。片方は上げる形で、片方は下げる形で。定義してくる相手といると、自分の輪郭が他人の手に握られたままになる。

サキ:ああ、それは分かります。だから離れると、輪郭が戻ってくるんですよね。この方が距離を取ってきたのは、たぶん間違いではないんです。ただ、戻ってきた輪郭を、そのあと誰にも見せていない。それが少し気がかりです。

シオン:定義から逃れた者は、しばらく名前のない場所に立つことになる。それは自由であり、同時にひどく心細い。あなたが「見捨てられるのではないか」と感じるのは悪い予感ではなく、名前のない場所に立っている者が必ず通る風なのかもしれない。風が吹くのは、囲いが取り払われた証でもある。

自分に問いかけるロードマップ

  • あなたが人から与えられてきた「役割の名前」を、思い出せる限り書き出してみてください。優しい、我慢強い、しっかりしている。その中に、あなたが自分で選んだものはいくつありますか。
  • 誰かの要求を断ったとき、実際に失われたものは何でしたか。想像していた損失と実際の損失は、同じ大きさでしたか。
  • 「十分だけなら聞ける」と言えそうな相手は、今の生活の中に一人でもいますか。その人が誰かを思い浮かべることは、練習として意味があります。

本日の羅針盤

第二章で見えてきたのはあなたが逃げてきたのではなく、定義してくる相手から輪郭を取り返してきたという筋道です。

ただし取り返した輪郭は、まだ誰にも渡していません。ケンゴは「十分という単位を持て」と言い、サキは「その十分を口に出した後の沈黙に耐える体力が要る」と返しました。二人の議論は決着していません。決着させないまま、あなたの手元に置いておいてください。

一つだけ確かなのは、「優しいから」と「そういうとこなんだよね」は、あなたを外側から決めつけるという一点で同じだということです。どちらの声も、あなたの名前ではありません。

よりみちナビゲーター

人生の岐路で立ち止まったすべての人へ。答えを「断定」せず、あなた自身が納得できる「複数の選択肢」と「視点の切り替え方」を優しくお伝えする道案内チームです。

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