15年連れ添った愛猫の体が冷たい…最期の数日を穏やかに過ごすための寄り添い方

第二章 なでている手を、いったん止めてみる

よりみちナビゲーターの対話

サキ:二つめのご質問に入りますね。「この子は本当は何を望んでいるのか」。これは答えが出ない問いだと、最初に申し上げておきます。猫は言葉で教えてくれません。ですから、私たちができるのは当てることではなくて、読むことです。

ケンゴ:読み方の枠組みを示したい。一般に体調を崩した猫は、暗く狭い静かな場所に移動する傾向があると言われている。夏なら家の中でいちばん涼しい床の上を選ぶことも多いだろう。人の腕の中は、その条件とは違う。だから理屈だけで言えば、あなたが望んでいる形と猫が本来選ぶ形は、一致しない可能性がある。

サキ:ケンゴさんのおっしゃることは分かります。ただ、そこにひとつ加えさせてください。それは「自分で動ける猫」の話ですよね。この子はもう三日、自分で場所を選べていません。しかも今、体は冷えているんです。涼しい床を選ぶ体力も、その必要もない状態です。選べない子にとって、いつも自分をなでてきた人の匂いのする場所がいちばん心穏やかな場所でないと、誰が決められるでしょうか。

ケンゴ:確かに前提が違うな。ただ、私が心配しているのは猫の側だけではない。この方は「離れたくないだけなのか」と、ご自身を疑い始めている。疑いを抱えたまま抱き続けると、あとで「自分の都合で苦しませたのでは」という後悔の形に変わりやすい。だから判断の材料を持っておくべきだと言っている。

サキ:その心配は、私も同じです。だからこそ当てにいくのではなく、確かめる方法をお伝えしたいんです。今夜一度だけ、なでている手を止めてみてください。三十秒でいいです。それで体がどうなるかを見る。

三十秒のあいだに体が緩んで呼吸が深くなり、そのまま眠るようなら、この子は「そっとしていてほしい」と伝えています。逆に頭をわずかに動かしてあなたの手を探す、喉が鳴る、体をあなたの側へ寄せてくるようなら、そばにいることを選んでいます。

触ったときに体が硬くなる、耳が横に伏せる、しっぽの先だけがぱたぱた動く、口を開けて息をする。こういう反応が出たら、それは「今は触られたくない」の合図です。手を離して、名前を呼ぶだけにする。声は体に負担をかけません。

それと、腕枕は長時間になるとあなたの体温でその部分だけ蒸れます。夏場ですから、時々そっと腕を抜いて、タオルを一枚はさみ直してあげてください。離れることになるわけではありません。

シオン:人は答えのない問いを前にすると、答えを出せない自分を責め始める。この方の「情けない」も、そこから来ているように見える。ソラという猫は十五年のあいだ、この方を責める言葉をひとつも持たなかった。最後の数日だけ、その猫が急に採点を始めると考えるのは、少し不自然ではないだろうか。

ケンゴ:……そうだな。私は判断材料の話をしていたが、判断される側の話にすり替わっていた。ところで、夜勤はどうされているのだろうか。この暑さの中、三日続けて眠らずに工場へ立っているなら、それは看取りの体力が尽きる話につながる。

サキ:そこ、大事ですね。数時間でも代わりに見てくれる方がいれば頼ってください。娘さんに電話をするきっかけに、この子がなってくれることもあります。誰もいなければソラさんを寝かせたベッドの隣で、あなたも一緒に横になって目を閉じる。それは見捨てることではありません。

自分に問いかけるロードマップ

  • 手を止めた三十秒のあいだ、ソラの体は緩んだか探したか。どちらだったかを言葉にできるか。
  • 「離れたくないだけかもしれない」という気持ちを、悪いことのように扱っていないか。十五年一緒にいた相手に離れたくないのは、責めるべきことなのか。
  • この三日間で自分は何時間眠ったか。数えてみたか。
  • 誰かに「今、こういう状況だ」と伝えたか。伝えていないなら、伝えないでいる理由は何か。

本日の羅針盤

サキの視座は「当てるのではなく、読む」。手を止めて三十秒、体の反応を見る。それがこの子の希望に最も近づける方法です。

ケンゴの視座は、「解釈には限界がある。だから体力と情報を確保する」。眠れる時間を作り、獣医師と連絡を取り続ける。

シオンの視座は、「この子はあなたを採点していない」。答えを出せない自分を責める必要はありません。

正解を選ぶ場面ではなく、反応を見てそのつど、手の置き方を変えていく場面です。

観察していて、痛みや苦しさのある様子(うずくまって動かない、呼吸が速く浅い、口を開けて息をする、うなるような声を出す)が見られる場合は、我慢させずに動物病院へご連絡ください。痛みをやわらげる方法があるかどうかを判断できるのは、獣医師だけです。

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