「行けなかった大学」という、消えない灯について
私は二十歳、女です。高校生のころ農学を学びたくて、大学へ行きたいと思っていました。家にお金の余裕はなくて、私立は無理だから国立を目指します。奨学金とバイトでなんとかしようと、そう決めていました。でも、合格できませんでした。一年、また一年と挑戦して、今年の春、ついに諦めました。これ以上、親に負担をかけたくなかった。
いまは二年制の農業系の学校に通っています。学校の勉強は正直、私が知りたかった深さに届かない。だから空いた時間に独学をして、大学の先生に会いに行ったりもしました。でも、面接や実習先で「大学を出ていないと話にならない」とか、もっとひどい言われ方をしたこともあります。そのたびに、心の奥がきしむような音を立てます。
諦めきれなくて、いま放送大学の講座を取っています。けれど、自分の興味とは少しずれている気がして、ページをめくる手が止まる夜があります。何よりつらいのは、「本当は、あの大学に行きたかった」という気持ちがいつまでも消えないことです。眠れない夜があります。卒業した知人に話しても、「気にしすぎだよ」と笑われて終わる。誰にも、本当のところは伝わらない。こういう気持ちを聞いてくれる場所は、どこかにあるのでしょうか。
よりみちナビゲーターの対話
アキ:あのね、まず言わせて。あなたの気持ち、「気にしすぎ」じゃ絶対にないよ。十代の終わりから二十歳の今までずっと、ひとつのことを諦めきれずに抱え続けてきたんでしょう。それは心の中にずっと、灯がついてるってことなんだ。消えない灯を持ってる人にしか、その重さはわからない。眠れない夜があるって書いてくれたとき、私、胸が締めつけられた。
ケンゴ:その気持ちに水を差すつもりはない。ただ、ひとつだけ事実として伝えておきたいことがある。日本の農学分野は、社会人入学や編入の制度が比較的整っているほうだ。二十歳という年齢は、人生のキャリアから見ればまだ「これから」の側にある。今すぐではなくても、二十五でも三十歳でも、大学に入り直す道はある。「諦めた」と書いてあったが、それは「いま一度休む」と読み替えてもいい話だと、私は思う。
アキ:ケンゴさんの言うこと、わかるよ。道があるって伝えてあげたい気持ち、すごくわかる。でも──いまこの人に必要なのは「次の道」の話より先に、「行けなかった痛みをちゃんと悲しんでいい」っていう許可なんじゃないかな。前に進む話をする前に、立ち止まって泣いていい場所がいる。私はそう思う。
ケンゴ:……それも一理ある。たしかに、痛みを飛び越えて未来の話をするのはときに残酷だ。失敗した。私は少し急ぎすぎた。
アキ:ううん、責めてるんじゃないんだよ。ケンゴさんが見せてくれた「道はまだある」って事実は、たぶんあとから効いてくる。順番の話をしただけ。いまはまず、「悔しい」「悲しい」を誰かにそのままの形で受け取ってもらう経験が、この人にはまだ足りてない気がするんだ。
シオン:ひとつ、ぼんやり思ったことを置いていこうか。「大学に行きたかった」という気持ちは、本当に「大学」という建物に向けられているのだろうか。もしかすると、その建物で出会えたはずの誰か、交わせたはずの言葉、深められたはずの問いに向けられているのかもしれない。だとすれば、その灯はまだ消す必要はないのではないだろうか。建物の外でも、灯はかかげられる。
自分に問いかけるロードマップ
少し、ご自身に問いかけてみてください。
- 「大学に行きたかった」という気持ちのいちばん奥にあるものは何でしょう。学問そのものへの渇きでしょうか。それとも、「大学生になれなかった自分」というラベルへの痛みでしょうか。両方が混ざっていてもかまいません。ただ、分けて見つめてみる価値はあります。
- 放送大学の講座が「興味とずれている」と感じるとき、本当に学びたかったのは、具体的にどんなテーマになりますか。「農学」の中のどの土の匂いに、あなたは惹かれたのでしょう。
- いま、あなたを「バカにする」言葉を投げてきた人たちの声と、独学のあなたに会ってくれた大学の先生の態度と、どちらが「本物の学問の世界」に近いと感じますか。
本日の羅針盤
あなたの痛みは、「気にしすぎ」では決してありません。経済的な理由で進路を断たれることは本人の努力不足ではなく、社会の側の課題でもあります。眠れない夜があるという言葉を、私たちは軽く受け取りません。もし眠れない夜が続いたり、気持ちが沈み込んで動けない日が増えてきたら、どうかひとりで抱え込まず、各自治体の「こころの健康相談」窓口やよりそいホットライン(電話相談、24時間対応の窓口があります)など、専門の相談機関を頼ってみてください。話を聞いてもらうことは弱さではなく、賢さです。
そのうえで、本日の三人の声を無理にひとつにまとめずにお渡しします。
アキは言いました──まず、悲しんでいい。痛みを飛ばして前に進まなくていい。
ケンゴは言いました──道は閉じていない。二十歳はまだ、始まりの側にいる。
シオンは言いました──あなたが本当に灯していたものは建物ではなく、問いそのものかもしれない。
この三つは、矛盾しません。順番に効いてくる薬のようなものです。今夜はアキの言葉をそばに置いて眠ってください。来週か、来月か、ふと心が動いたとき、ケンゴの言葉を思い出してください。そしていつか、自分の灯の正体に気づきたくなったとき、シオンの言葉が役に立つはずです。
灯は消えていません。消えていたらこうして長い手紙を書く力は、あなたに残っていなかったはずです。






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