古い家で一人、説明のつかないものが見える夜に。心と暮らしを立て直す処方箋

私はこれから、どうやってこの家で暮らしていけばいいのだろう

築六十年の借家に、私は一人で住んでいる。三十七歳独身、職は失業手当でつないでいる。半年前まで隣町で母の介護をしていた。母を見送ったあと実家を引き払い、家賃の安いこの家に転がり込んだ。

変なことが起こり始めたのは、引っ越して三週間目の夜だった。台所の蛍光灯がチカチカと点滅し、振り返ると流しの前に小さな影が立っているように見えた。瞬きをすれば消える。けれど確かに、誰かがそこに立っていた気配だけが、冷えた床板の上に残っていた。

もともと私は、そういうものを感じやすい質(たち)らしい。子どもの頃、夜中に廊下で見知らぬおばあさんとすれ違ったことがある。母に話したら、「あんたはそういう子だから、あまり深く考えるな」と笑われた。それ以来、見えても言わない癖がついた。

けれど、この家に来てから頻度がはっきり増えた。寝入りばなに金縛りに遭う。天井のあたりから、自分の寝姿を見下ろしているような感覚がある。先週は枕元に、小学生くらいの男の子が立っている夢を見た。半袖のシャツを着ていて、どこか幼い頃の自分に似ていた。

母を看取った疲れが、まだ抜けていないのかもしれない。それともこの家に、何かがいるのか。あるいは孤独すぎて、自分自身の幼い部分が会いに来ているのか。判別がつかない。

近所に相談できる相手はいない。お祓いしてくれる場所も知らない。深夜、湯呑みを両手で握りしめながら、「私はこれから、どうやってこの家で暮らしていけばいいのだろう」とただ天井を見上げている。

四人の声が、夜更けの台所に灯りをともす

シオン――「正体」を急いで決めなくてもいい

あなたが見ているものが何であるかを、今すぐ言い切る必要はどこにもない。幽霊なのか、疲労による錯覚なのか、それとも、あなた自身の幼い部分がようやく安全な場所を見つけて顔を出しているのか。答えはひとつと限らない。

古い家には、前に住んだ人々の暮らしの匂いが木目の奥まで染み込んでいる。あなたはたぶん、その匂いを人より少しだけ強く嗅ぎ分けてしまう質なのだろう。それは欠陥などでなく、ひとつの感受性のかたちと私は思っている。

急いで「これは何か」と名前をつけようとすると、かえって輪郭がぼやける。しばらくは「わからないまま、ここに座っている」という時間を自分に許してみてはどうだろうか。

サキ――「説明できない感覚」を抱えるのは、心細いですよね

お母様の介護を終えられたばかりで、しかも知らない土地のお家に一人。それだけで、心も体もずいぶん疲れていらっしゃると思うんです。そういう時、自分の感覚が普段より敏感になることって、本当にありますよね。

私も子どもが生まれたばかりの頃、夜中にいるはずのない人の足音が聞こえることが何度もあったんです。あとから振り返ると、睡眠が極端に浅くなっていた時期でした。「見える・聞こえる」ことそのものより、それを誰にも話せない孤独のほうがしんどいですよね。

もし、金縛りや夢見の乱れが続いて、日中の生活に支障が出るようでしたら、心療内科や睡眠外来の先生に一度お話しされるのもひとつの方法ですよ。霊的なことを否定するためではなく、心と体の疲れを整えるための「休憩所」として使う感覚で大丈夫です。

気づきのセクション――「正体不明のもの」が映しているもの

相談者が見ている小さな男の子は、もしかすると長い介護のあいだずっと我慢してきた、「自分自身の幼い部分」の姿かもしれない。母を支える役割を果たし続けたあなたは、その役割の陰で誰にも甘えられなかった子ども時代のあなたを、置き去りにしてはいなかっただろうか。

「あれは何か」と問うとき、私たちはつい外側に答えを探す。けれどその問いを少しだけ内側に向けてみると、「私は今、何を寂しがっているのか」という別の問いが姿を現すことがある。

本質的な結論

見えているものの正体を急いで断定しないこと。それと同時に、「正体不明のもの」を抱えている自分自身の心と体を、まず労わること。この二つを並行して進めるのが、今のあなたにとってもっとも穏やかな道筋だ。お祓いを探す前に、温かい食事と、深い眠りと、誰か一人で構わないので「最近、変な夢を見るんだ」と話せる相手を見つけることを、先にしてみてほしい。

専門機関への案内

金縛りや不眠、説明のつかない知覚体験が続いて日常生活に支障が出ている場合は、心療内科・精神科・睡眠外来などの専門機関に相談することを検討してください。強い孤独感や気分の落ち込みが続く場合は、お住まいの自治体の保健センターや、よりそいホットライン(0120-279-338)など、電話相談の窓口も利用できます。「霊的なものかどうか」を判定してもらうためではなく、心と体の疲労を整える入り口として、専門家の力を借りることは恥ずかしいことではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました