みんなも、こういう孤独を感じているのだろうか
私は今年で三十九になる。地方の小さな町で、祖母から受け継いだ古い金物屋を一人で切り盛りしている。離婚してから、もう四年経った。
店を閉めて、二階の住まいに上がる。冷蔵庫から缶ビールを取り出して、まだ温い夏の夜気のなかで一口飲む。それから、ふと思う。──私には、親友と呼べる人間がいるのだろうか。
高校のとき、大学のとき、確かに「こいつとは一生の付き合いだ」と思った連中がいた。河原で朝まで馬鹿話をした夜のことも、就職活動で励まし合った冬のことも、今でもはっきり覚えている。けれど、それぞれが家庭を持ち、土地を離れ、年に一度の年賀状すらやり取りしなくなった。
たまに同窓会で顔を合わせれば、笑い合うことはできる。けれどその帰り道、無人駅のホームで終電を待ちながら、なぜか胸の奥が冷えていく。「明日、ふらっと旅行に行こう」と誘える人間が、四十手前の私には一人もいない。
結婚していた頃は、こんなことを考えもしなかった。妻と過ごす時間で、心の隙間は埋まっていたのだろう。一人になって初めて、自分が築いてきた人間関係の薄さに気がついた。
連絡をマメに取ればいい。新しい関係を作ればいい。そんなことは分かっている。私が知りたいのはそこじゃない。みんなも、こういう孤独を感じているのだろうか。それとも、感じているのは私だけなのだろうか。──ただ、それだけ知りたい。
ケンゴとシオンによる対話
ケンゴ:結論から言おう。あなただけではない。中央大学の研究グループが、日本国内で過去に実施された調査を分析したところ、この四十年ほどの間に人々の孤独感は上昇傾向にあるという。つまりあなたが感じている冷えは、時代の空気と地続きのものだ。あなた一人の性格の問題ではない。
シオン:多くの人が同じ星の下で、同じ問いを抱えているのでしょうね。「自分だけがこう感じている」と思う孤独ほど、人を深く沈めるものはありません。
ケンゴ:そうだ。だから、まずここを押さえてほしい。あなたの感性は、おかしくも弱くもない。むしろ社会全体が抱えている気圧の変化を、正直に受け止めているだけだ。
シオン:ケンゴさん。私はもう一つ、別の角度から考えてみたいのです。「孤独感が増えている」という事実は確かに重い。しかしその一方で、世の中には一人でいる時間を深く愛している人たちも、確かに存在しているのではないでしょうか。
ケンゴ:同感だ。私自身、深夜に一人で町を歩く時間を何よりの贅沢だと思っている。誰にも話しかけられず、誰にも説明しなくていい時間。あの静けさは、家族と過ごす時間とも友人と飲む時間とも、まったく違う栄養を運んでくる。
シオン:一人で生きることと孤独であることは、必ずしも同じではないのかもしれません。同じ部屋にいる「一人の時間」を、ある人は寂しさと呼び、ある人は自由と呼ぶ。器は同じでも、注がれる水の名前が違うのです。
気づきのセクション
ケンゴ:ここで一つ、考えてみてほしい。あなたがいま辛いと感じているのは、本当に「一人でいること」そのものだろうか。それとも、「一人でいる自分には何かが欠けている」という世間からの暗黙の声のほうだろうか。
シオン:「親友がいるべきだ」「旅行に行ける友達がいるべきだ」──そうした“べき”の重さに、押し潰されているのかもしれません。けれどその“べき”は、本当にあなた自身が望んだものでしょうか。
ケンゴ:古今東西、一人の時間を糧にしてきた人間は数えきれないほどいる。文章を書く者、絵を描く者、ものを修理する者、土に向き合う者。彼らにとって孤独は欠落ではなく、むしろ仕事の源泉だ。あなたが営んでいる金物屋という仕事も、一人で集中する時間がなければ成り立たないだろう。
シオン:孤独は客人のようなものだと、私は思っています。歓迎せずとも、追い払う必要もない。お茶を一杯出して、隣に座ってもらえばいい。そうしているうちに、その客人が運んできた贈り物に気づくことがあります。自分の本当に好きなもの、本当に大切な人、本当に進みたい方向。賑やかさの中では聞こえなかった声が、孤独の静けさの中でだけ、はっきりと聞こえることがあるのです。
ケンゴ:もちろん、つながりは必要だ。それは否定しない。ただし、それは「親友」という形に限らない。週に一度立ち寄る店の常連、年に二度連絡を取る昔の同僚、犬の散歩で会釈を交わす近所の老人──そうした薄く広い関係の総量と、一人の時間の豊かさ。この二つが両輪としてあれば、人は十分に生きていけると私は思う。
本日の結論
あなたが感じている孤独は、あなた一人のものではない。日本社会全体が、長い時間をかけて孤独感を深めてきたという研究もある。だから、自分を責める必要はまったくない。──そして同時に、孤独そのものは、必ずしも敵ではない。一人でいる時間は、賑やかさの中では決して聞こえない自分の声と出会う、貴重な機会でもある。
「親友がいない自分はダメだ」という“べき”を一度脇に置いて、目の前の一人の時間に、どんな贈り物が含まれているかを確かめてみてほしい。あなたが本当に欲しいものは、その静けさの中にこそ、姿を現すかもしれない。
参考情報
- 中央大学の研究グループによる、日本国内の孤独感に関する長期的傾向の分析(過去に国内で実施された複数の調査データを統合的に検討した研究)
※孤独感が長期にわたって生活や心身に強く影響していると感じられる場合は、地域の相談窓口や専門機関へのご相談もご検討ください。




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