人間関係をバッサリ切ってしまう自分に自己嫌悪…それは「逃げ癖」ではなく限界のサインです

第一章 「甘え」という言葉を、あなたは誰の声で聞いているか

コインランドリーで一時間、乾燥機の前から動けなかった夜

相談させてください。二十七歳の女です。瀬戸内の小さな町で、介護老人保健施設の事務をしています。三年前から古いアパートで一人暮らしをしていて、休みの日は市民オーケストラでビオラを弾いています。
弾いていた、と言うべきかもしれません。ここ半年、練習に行くのが本当につらいんです。

嫌なことがあると、すぐに逃げます。距離を取ります。関わると必ず気分が沈む人、一緒にいると自分まで悪い方に流れていく人とは、なるべく関わらないようにしてきました。
でも最近、自分の調子もよくありません。夜中の三時に目が覚めて、そこから朝まで眠れません。今よくしてくれている人たちも、そのうち私に愛想を尽かすんじゃないかと、勝手に先回りして怖くなります。

一番きついのは、同じパートの同い年の女性です。私が音を外すと「そういうとこなんだよね」と言い、説明しようとすると「そんな簡単なことも言葉にできないの」と遮ります。
彼女がいる日は、練習場の階段を上がっている途中から喉が渇きます。自分なりに考えて話したことも、休憩中の何でもない雑談も、鼻で笑われます。触れられたくないところにも平気で踏み込んできます。これは相手にも問題がありますよね。もう限界です。

職場にも、「あなたは優しいから聞いてくれるでしょ」と昼休みのすべてを愚痴で埋める人がいて、悪気はないんだと思いますが耐えられなくなって、休憩室に行くのをやめました。
最初は感謝していた先輩も、結局は説教がしたいだけだと気づいて自分から離れました。

二月の夜、練習の帰りにコインランドリーに寄って、乾燥機が回っているのを一時間、ずっと座って見ていました。洗濯物はとっくに乾いていました。自分の心を守るためにやってきたつもりです。でも、こうやって次々に関係を切っていく自分が、時々どうしようもなく嫌になります。私はどうすればよかったんでしょうか。

よりみちナビゲーターの対話

アキ:まず、これだけ先に言わせて。逃げてないよ、あなた。階段を上がってる途中で喉が渇くって、頭で「嫌だな」って判断するより先に、体が警報を鳴らしてるってことなんだよね。それを無視して通い続けることを「強さ」って呼ぶの、私は本当に良くないと思ってる。あと、「そんな簡単なことも言葉にできないの」は指導でも助言でもないよ。相手を下に置くことで自分の座り心地を良くしたい人の言い方。あなたの読み取りは、合ってる。

サキ:合っていますね。しかも乾燥機の前で一時間というのは、かなり強いサインです。半年、夜中の三時に目が覚めるのが続いているのも気になります。もし今も続いているなら、心療内科やお住まいの自治体のこころの健康相談窓口を一度使ってみてほしいです。相性の悪い人から離れるという話と、体が消耗しているという話は、別々に手当てしたほうがいいですよね。

ケンゴ:私も、離れた判断そのものは支持する。回避は立派な戦術だ。ただ、気になるのは回数ではなく反復のかたちだ。同い年のパートの女性、愚痴を預けてくる同僚、説教をしたい先輩。相手は入れ替わっているのに、あなたの役柄だけが毎回同じだろう。「よく聞く人」「怒らない人」の席に、いつも座らされている。席の位置を変えないまま部屋だけ移り続けると、五年後も同じコインランドリーに座ることになる。

アキ:ケンゴさんの言うことも分かる。ただ、それを今このタイミングで言うのは早くない? 役柄がどうとか席がどうとか、この人には「あなたにも原因がある」って聞こえるんだよ。血が出てる人に走り方のフォームの話をしてる感じ。今は止血が先。

ケンゴ:アキの懸念はもっともだ。私も原因を本人に負わせるつもりはない。鼻で笑う側が悪い。そこは動かない。
私が言いたいのは責任の話ではなく、設計の話だ。「優しいから聞いてくれるでしょ」と言われた瞬間に返せる言葉を、事前に一つだけ持っておく。それだけで、関係を切るか耐えるかの二択が三択になる。切ることしか手がないから、切るたびに自分を責める羽目になっているんだ。

サキ:お二人とも大事なことを言っていますね。ただ、私が気になるのはもっと手前です。
この方は二月の夜に一時間、動けなかったんですよね。設計図を描く体力が今あるかどうか。私は日曜の夜に洗濯物をたためているか、朝ごはんに手が伸びるか、そのあたりで判断します。生活が回らなくなる選択は、結局どちらの主張も実行できなくしますから。

アキ:じゃあ順番だね。今週は止血。設計は朝ごはんが食べられるようになってから。

シオン:一つ、思うことがある。ドアを閉める音が一番大きく聞こえるのは、閉めた本人の耳だけだ。あなたが数えている「切ってしまった関係」の数を、相手はおそらく数えていない。数えているのはあなただけで、それはあなたが関係というものを軽く扱えない人間だという証拠かもしれない。
逃げ癖のある人間は、自分の逃げ癖に悩まない。悩んでいる時点で、あなたはもう答えの半分を手にしているのではないだろうか。

自分に問いかけるロードマップ

  • 離れた相手を思い出すとき、悔やんでいるのは「離れたこと」ですか。それとも「離れ方が急だったこと」ですか。この二つは、まったく別の痛みです。
  • 「見捨てられるかもしれない」と感じるとき、その予感の根拠は相手が実際にしたことですか。それとも以前、どこかで受け取った言葉の残響ですか。
  • 「甘え」という言葉を、あなたは誰の声で聞いていますか。それはあなた自身が最初に思いついた言葉ですか。

本日の羅針盤

第一章の針は、一つにまとまりませんでした。

アキの針は、体の警報を信じることを指しています。喉が渇く、眠れない、動けない。これは判断材料であって、克服対象ではありません。

ケンゴの針は、切る以外の手札を増やすことを。ゼロか百かしか持っていないと、離れるたびに自分を裁くことになります。

サキの針は、朝ごはんが食べられる状態を守ることを。何を決めるにしても、決められる体でいることが先です。

シオンの針は、どこも指していません。ただ、閉めたドアの数を数えているあなたの手つきを見ています。

「私はどうすればよかったのか」。この問いに編集部から一つだけお答えするなら、過去形を現在形に置き換えることを提案します。よかったかどうかは、もう決めません。決めるのは次に階段で喉が渇いたとき、あなたが何を持っているか。それだけです。

不眠や気分の落ち込みが二週間以上続いている場合は、専門機関への相談もご検討ください。医療機関のほか、自治体のこころの健康相談や、勤務先の相談窓口も選択肢になります。

よりみちナビゲーター

人生の岐路で立ち止まったすべての人へ。答えを「断定」せず、あなた自身が納得できる「複数の選択肢」と「視点の切り替え方」を優しくお伝えする道案内チームです。

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