★ 鬱の彼から「LINEしないで」と言われた私へ。待つべきか、区切るべきか、五ヶ月の恋の答え

第五章 エピローグ ―― 半年後と一年後のあなたから、今のあなたへの手紙(フィクション)

※本章は、未来の相談者の姿を「あり得る景色のひとつ」として描いたフィクションです。実際の未来を予言するものではなく、確定した展開を保証するものでもありません。今のあなたを支えるための、想像の手紙としてお読みください。

一通目 ―― 半年後のあなたから

こんにちは。半年後の私から、あの頃の私へ。

葉桜がもう何度も季節をめぐりました。今は秋の入り口で、ベランダの盆栽は葉っぱの先がほんの少しだけ色づきはじめています。あなたが「満開になったよ」と返信したあの春から、半年が経ちました。

正直に書きますね。彼からまだ、連絡は来ていません。

あなたが今この一文を読んで、心臓がきゅっとなったのがわかります。私もそうでした。「やっぱり、戻ってこなかったんだ」って、半年後の自分が書いた手紙を読んで何度も泣くだろうな、って想像しています。

でもね、聞いてほしいの。半年後の私は、思っていたよりずっとちゃんと生きています。

最初の一ヶ月は、本当にきつかった。トーク画面を一日に何回も開いて、「キレイに咲いたね♪」のメッセージをお経みたいに読み返してた。夜中にふと目が覚めて、彼の名前で検索しちゃったり。SNSも見ちゃった。何度も。

二ヶ月目に、ひとつだけ自分にルールを決めたの。「彼のトーク画面を開くのは、夜の九時から九時半までの三十分だけ」って。それ以外の時間は開かない。最初は手が震えるくらい辛かったけど、二週間くらいで、だんだん慣れた。三十分の中で、開かない日も出てきた。

三ヶ月目に、ヨガを始めました。理由は単純で、夜眠れなかったから。週に一回、駅前のスタジオに通うようになって、そこで何人か軽く話せる人ができた。彼のことを話す相手じゃなくて、ただ「最近寒くなってきましたね」って言える人。それが思った以上に救いだった。

四ヶ月目、初めて彼のことを一日中思い出さない日があった。気づいたのは夜寝る前で、「あ、今日、彼のこと考えてなかった」って、なんだか申し訳ない気持ちになった。でも、申し訳なく思う必要なんてないんだよね。彼を忘れたわけじゃない。ただ、自分の一日が自分のもとに戻ってきただけ。

五ヶ月目、桜の盆栽の植え替えをしました。本を読んで、根っこをそっとほぐして、新しい土に入れた。これは私の植物だ、って、初めてちゃんと思えた。彼からもらった気持ちの象徴じゃなくて、私が育てている、私の桜。

そして今、半年後。彼のことを思い出さない日のほうが、思い出す日より多くなりました。それでも、ふいにやってくる瞬間はあります。葉桜の写真を見たとき。誰かが「ただいま」とLINEしてきたとき。深夜にスタンプ一個だけ届く、誰かのトーク画面を見たとき。胸の奥が、少しだけ湿る。でももう、流されることはない。

彼が今どうしているか、私は知りません。元気になっているのか、まだ苦しんでいるのか、新しい誰かといるのか、ひとりでいるのか。知らないということを、引き受けられるようになりました。これは、半年前の私には絶対にできなかったこと。

あの頃の私へ。連絡が来ない毎日に、意味がないわけじゃないからね。あなたが「彼のトーク画面を開かない時間」を作ろうとするたびに、未来の私が立ち上がっていく。あなたが友達のお誘いに「行く」って返信するたびに、半年後の私が一歩前に進む。あなたが盆栽に水をやるたびに、その水は未来の私のところまで届いている。

だから、つらい夜もつらいまま生きていてください。元気にならなくていい。前向きにならなくていい。ただ、生活を続けていてくれればそれでいい。朝になったら起きて、何か食べて、夜になったら眠る。それだけで、半年後の私がちゃんと立っている。

愛してる、と書こうとして消しました。今のあなたは、そんな言葉を受け取れる状態じゃないと知っているから。だからこう書きます。

「あなたが今夜、ちゃんと眠れますように」。

それだけで、十分です。

シオンの、便箋の余白に

シオン:半年という時間は外から見れば短いですが、その人の中では一つの季節を丸ごと通過する長さでもあります。春の終わりに止まっていた時計が、夏の暑さを受け、秋の風で少しずつ動き出す。
動かそうとして動くのではなく、生きていればひとりでに動き出すものなのかもしれません。あなたが何かを成し遂げる必要はないのかもしれません。ただ、季節に身を任せることがいちばん難しくて、いちばん尊いことなのですから。

二通目 ―― 一年後のあなたから

もう一度、こんにちは。今度は一年後の私です。

ベランダの盆栽は、また春を迎えました。今年もちゃんと花が咲きました。去年より、少しだけ枝ぶりが力強くなった気がします。植え替えのおかげかもしれません。

一年後の私の暮らしを、少しだけお話ししますね。

仕事は相変わらず続けています。あの頃と同じ職場で、同じ通勤路。でも、見える景色は少しずつ違っています。駅のホームで桜を待つ気持ちが、去年とは違う。「彼に見せたい」じゃなくて、「今年も会えたね」って、桜そのものに挨拶している自分がいる。

友達が増えました。ヨガで知り合った人と、月に一回ご飯に行くようになって、その人がまた別の友達を紹介してくれて。「最近、楽しそうだね」って、職場の同僚にも言われた。意識して明るくしているわけじゃない。ただ、自分の時間を自分のために使えるようになった。それだけ。

そして、書きにくいことを書きます。

彼から、連絡が来ました。

……というのは、ひとつのあり得る未来です。半年が過ぎた頃、ある夜、ふいに「久しぶり。元気にしてる?あの時はごめん」というLINEが届く可能性。
文面はもっと短いかもしれないし、もっと長いかもしれない。スタンプ一個だけかもしれない。来るかもしれないし、来ないかもしれない。これは未来の私にもわかりません。

もし来たら、私はどうするだろう。一年後の私は、たぶんこう思う。「すぐに飛びつかない自分」になっている。嬉しい。間違いなく嬉しい。胸が震える。でも、その震えに任せて即返信はしない。一晩おく。お風呂に入る。盆栽に水をやる。そして、自分に問う。「私はもう一度、この人と関係を始めたいだろうか?」

答えは、その時の私にしかわからない。「うん」かもしれないし、「もう、いいかな」かもしれない。
どちらの答えも、正解です。一年かけて自分の生活を立て直してきた私には、どちらの答えを選ぶ権利もある。

もし連絡が来ないまま一年が過ぎたとしても、それもひとつの答えです。彼は彼の時間を生きていて、私は私の時間を生きている。交わらなかったこと自体に、意味がなかったわけじゃない。あの五ヶ月の付き合いは私の中に確かに残っていて、その経験が今の私を作っている。感謝、という言葉では足りないけれど、恨みという言葉も違う。ただ、「あった」ということ。それだけで、十分。

あの頃のあなたへ。一年後の私から、最後に伝えたいことがあります。

あなたは「彼を待つか、区切るか」で、ものすごく悩みましたよね。でもね、一年経ってわかったの。あれは「待つか、区切るか」の選択じゃなかった。「自分の人生を生きるか、止まったままでいるか」の選択だったの。

そしてあなたは生きるほうを、ちゃんと選んだ。毎日、選び続けた。九時半にトーク画面を閉じる選択。ヨガに行く選択。植え替えをする選択。ひとつひとつは小さいけれど、その全部が未来の私を作ってくれた。

彼を愛した気持ちは本物でした。今でも、否定しません。でも、彼を愛したことと自分の人生を生きることは、矛盾しない。むしろ、自分の人生をちゃんと生きている人だけが誰かを本当に愛することができるんだと、一年かけてようやくわかりました。

桜は今年も来年も、また再来年も咲きます。あなたの盆栽も、私の盆栽も。それを誰かと見るか、ひとりで見るか、どちらでもいい。咲くことそのものが、もう十分に美しい。

今夜もちゃんと眠ってください。一年後の私が、ここで待っています。

三人からの、結びの言葉

アキ:……書きながら、私も泣きそうになっちゃった。これは、あくまでフィクションだよ。実際の未来がこの通りになるとは、誰にも保証できない。彼から本当に連絡が来るかもしれないし、来ないかもしれない。あなたが半年後にヨガを始めるとは限らないし、別の何かを始めているかもしれない。
でも、ひとつだけ確実なことがある。「未来のあなたは必ず、今のあなたに支えられている」っていうこと。今夜、ちゃんと眠れたら明日が来る。明日が来たら、明後日が来る。それを積み重ねていける人は必ず、半年後にも一年後にも、ちゃんと立っているよ。

サキ:未来の手紙を読むときに、注意してほしいことがひとつあるんです。「こういう自分にならなきゃいけない」というプレッシャーに、絶対しないでください。半年後にヨガを始めなくてもいいし、一年後に達観していなくてもいい。書かれていることはひとつのあり得る形に過ぎません。あなたのペースは、あなたの中にしかない時計が決めることなんですよね。手紙はあくまで、「こんな景色もあり得るよ」という、お守りのようなもの。

ケンゴ:最後に、現実的なことを言っておく。半年後、一年後に、君が今と全く違う気持ちになっている可能性は確率的に高い。これは慰めではなく、人間の心の構造の話だ。
今この瞬間に世界の終わりに見える出来事も、時間というフィルターを通すと形が変わる。それは「忘れる」とか「軽くなる」という意味ではなく、「人生という大きな図の中で、その出来事の位置が決まっていく」ということだ。今は位置が決まっていないから苦しい。それでいい。位置が決まるまで、ただ、生活を続けてくれ。

シオン:そしてもしいつか、本当にこの手紙のような時間を経て、未来のあなたが今のあなたを振り返ったとき――「あの時、生きていてくれてありがとう」と、未来のあなたが今のあなたに言える日が来るのかもしれません。その日が半年後に来るのか、一年後に来るのか、もっと先に来るのかはわかりません。けれど生活を続けていれば、その日は必ず、どこかで訪れる。日付はわからないけれど、訪れるということだけはたしかなのです。

本章の結論、そして物語の結び

本質的な結論:未来は確定した一本の線ではなく、あなたが今夜の選択を積み重ねていくたびに、少しずつ形を整えていく景色です。彼から連絡が来るかどうかは、あなたには決められません。けれど「今夜ちゃんと眠ること」「明日ちゃんと食べること」「来週ヨガに行くか、別の何かを始めること」――この一つひとつは、あなたが決められることです。
半年後、一年後、もしかしたらあなたは、彼との関係に何らかの答えが出ているかもしれない。出ていないかもしれない。それでも、自分の生活を続けてきた事実は消えません。未来のあなたを支えるのは、今夜のあなたが眠れるかどうかだけです。
難しいことは、何もしなくていい。元気になろうとしなくていい。前向きにならなくていい。ただ、生活を続けてください。それが未来のあなたへの、いちばん大きな贈り物です。

そして、物語の外へ

第一章から第五章まで、お読みいただきありがとうございました。これは、ある相談者の方の悩みから生まれた物語です。もしあなたが同じような夜を過ごしているのなら、この物語がほんの少しでもあなたの体温を温めるものになれば嬉しいです。

本連載は心理的な助言の代替ではなく、共感的な読み物として書かれました。もし夜眠れない日が続いたり、気持ちが沈んで動けなくなる日が増えてきたら、お一人で抱え込まず、各自治体の精神保健福祉センターこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などに、ご自身のため相談してください。

未来のあなたが今のあなたに、いつか「ありがとう」と言える日が来ますように。今夜あなたが、ちゃんと眠れますように。

※本章は、未来の景色をフィクションとして描いたものであり、実際の展開を予言・保証するものではありません。

よりみちナビゲーター

人生の岐路で立ち止まったすべての人へ。答えを「断定」せず、あなた自身が納得できる「複数の選択肢」と「視点の切り替え方」を優しくお伝えする道案内チームです。

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