【便りを出す口実】遠距離の片思い・忘れられるのが怖いあなたへ心の寄り道

その小包は、季節の向こうから

十月の終わり、仕事から帰ると、玄関先に不在票はなく小さな段ボールが届いていた。差出人の欄に、四国のあの人の名前があった。

手が少し震えた。中には四国の銘菓と、それから一枚のはがきが入っている。私がいつも送っていたのと、同じ大きさのはがきだ。

そこにはこう書かれていた。
「いつも季節のお便りをありがとうございます。読むたびに、そちらの畑や町の様子が目に浮かびます。こんど、仕事で北陸へ行くことになりました。よろしければ名所を案内していただけませんか。おいしい食事もご一緒できたら嬉しいです」

私ははがきを持ったまま、しばらく玄関に立ち尽くしていた。

よりみちナビゲーターの対話

アキ: ……やば。私、今ちょっと泣きそう。だってさ、この子ずっと「忘れられたくない」って怖がってたじゃん。それが相手のほうから、「そちらの畑や町の様子が目に浮かびます」だよ。覚えてたどころかこの子の暮らしまで、ちゃんと想像してくれてたんだよ。

サキ: 本当ですね。私、いちばん胸を打たれたのは、お相手も同じ大きさのはがきで返してこられたことなんです。この方が季節ごとに送っていた、あの小さな一枚。それと同じ形で返事が来た。言葉にはなっていないけれど、「あなたの便りを私はちゃんと受け取っていましたよ」という返事なんですよね。

ケンゴ: ……私は少し、違うところに感心している。相手は「北陸へ行く用事ができた」と書いた。おそらく本当に、仕事があったのだろう。だが、その用事を口実にして会いたいと申し出た。──これはこの方がずっとやってきたことと、まったく同じ構造だ。

アキ: あ……。

ケンゴ: 口実を作って会いに行く。この方が二年間、四国へ通うときにしてきたことを、今度は相手が逆向きにやったんだ。口実というものが、実は誰かに会いたい気持ちを運ぶためのささやかな橋なのだと──二人とも、言葉にせずに分かっていたんだろう。

サキ: ……ケンゴさん、それはとても優しい読み方ですね。

シオン: ……私からも、一つだけ。

この方はずっと、「口実がない」と嘆いていた。けれど今、四国から届いたこの一通が教えてくれたのは、口実とは探して見つけるものではなく、想いを積み重ねた先に向こうから訪れるものだったということかもしれない。

年に二、三度の便り。返事を求めず、ただ季節とともに送り続けたあの静かな時間。それは相手の中に少しずつ、何かを積もらせていた。雪が音もなく積もるように。そしてある日その重みが、向こうからの一歩になった。

アキ: ……シオンさん。この子頑張ったよね。ちゃんと。

シオン: 急がず、押しつけず、けれど絶やさなかった。それはとても難しいことだ。この方は忘れられまいと数を数えるのをやめて、想いを生かし続けることを選んだ。その選択に、季節が応えたのだと思う。

自分に問いかけるロードマップ

  • あの日、玄関で立ち尽くしていたあなたへ。震えたその手は怖さからでしたか。それとも、報われた喜びからでしたか。もう、答えは分かっているはずです。
  • 名所を案内する日、あなたは何を話しますか。二年ぶんの便りに書いてきたこと、まだ書けなかったこと。会って伝えるべきことは、もう口実を必要としません。
  • そして次に便りを出すとき。あなたは「口実」という言葉を、まだ探すでしょうか。

本日の羅針盤

「便りを出す口実は、年賀状と暑中見舞いとクリスマスカードしかないのでしょうか」――そんな問いから、この物語は始まりました。

答えはこうです。口実は無限にあります。けれどいちばん確かな口実は、あなたの中にある想いそのものでした。そして最後に、その想いを絶やさず送り続けた先で、口実はもうあなたが探すものではなくなりました。四国から届いた小さな段ボールが、それを証明しています。

会える日は、まだわずかかもしれません。距離もそう簡単には縮まらないかもしれません。けれど、あなたはもう知っています。忘れられることを恐れる季節は終わったのだと。これからは二人で季節を数えていける。畑のえんどう豆が採れたら、みかんが色づいたら、そのつどどちらからともなく便りが飛ぶ。北陸と四国のあいだを、季節の数だけ。

北陸の空の下、はがきを持って立ち尽くしていたあなたへ。あなたが送り続けた一枚一枚は、無駄ではありませんでした。名所を案内する秋の日、どうかその手で受け取ったこの一通を思い出してください。あなたの想いがちゃんと海を越えて、帰ってきた日のことを。

よりみちナビゲーター

人生の岐路で立ち止まったすべての人へ。答えを「断定」せず、あなた自身が納得できる「複数の選択肢」と「視点の切り替え方」を優しくお伝えする道案内チームです。

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