【職人の人情】「正しいけど冷たい」と言われた私が、孫の言葉で気づいた十年目の優しさ

木を削るようには、人を削れない

製材所を継いで四十年になります。私は六十二、この秋に妻の一周忌を終えました。今は老いた犬と二人暮らしです。

先週、孫が学校の工作で棚を作るというので、うちの作業場に来ました。丸鋸の音が止まった間に、あの子が板の寸法を間違えたんです。私は反射的に「何回言えばわかる」と言いました。言った瞬間、木くずの匂いのなかで、あの子の肩が小さく縮んだのが見えました。

妻が生きていた頃、よく言われました。「あんたは正しいけど、冷たい」と。そのたびに私は、正しいことの何が悪いと思っていた。職人は寸法で嘘をつけない。一ミリずれた材は返品になる。そうやって四十年やってきたから、家も建てられたし、従業員の給料も払えた。

でも、孫が帰ったあとの作業場は、やけに静かでした。ストーブの上でやかんが鳴っているだけで。私は自分勝手で、わがままな人間です。人の気持ちより自分の段取りを優先する。今さらですが、人情のある人間になりたい。どうすればいいのか、正直見当もつきません。

よりみちナビゲーターの対話

シオン: 面白いことをおっしゃる。「人情のある人間になりたい」と。──では伺うが、あなたはなぜ孫の肩が縮んだのが「見えた」のだろう。冷たい人間には、見えないものではないだろうか。

アキ: それ、私も思った。四十年前のあなただったら、たぶん気づいてもいないよね。気づいて、しかも痛かった。それってもう、変わりはじめてるってことだと思う。まずは自分を責めるのをやめてほしいな。責めながら優しくなるって、たぶん無理だよ。身体が緊張してるときって、人にかける言葉も硬くなるでしょ。

ケンゴ: アキの言うことも分かる。ただ、私は少し違う見方をする。「責めるのをやめる」だけでは、来月また同じことを言うだろう。性格を変えるのは、正直に言って難しい。六十年かけて作った型だ。変えるべきは性格ではなく、設計だと思う。たとえば、指摘の前に一呼吸置くと決める。一秒でいい。それだけで口から出る言葉の順番が変わる。

アキ: でもさ、ケンゴさん。ルールで自分を縛るやり方って、この人がずっとやってきたことじゃない? 寸法を守って、段取りを守って、その延長で人にも厳しくなった。またルールを一個増やすの、私はちょっと怖いよ。

ケンゴ: 敬意を持って言うが、そこは逆だと思う。この方が守ってきたのは材の寸法であって、人との間合いの寸法ではない。同じ「守る」でも、対象が違う。むしろ、この方が一番信頼している方法で優しさを扱えるようにするのが、現実的なんじゃないか。気持ちだけで人は変わらない。私は四十代で、それを痛いほど学んだ。

シオン: ──あなたは「何回言えばわかる」とおっしゃった。それは孫を責める言葉だっただろうか。もしかすると、うまく教えられない自分への言葉だったのではないか。

アキ: ……あ。

シオン: 木は、削れば削るほど細くなる。人も同じだと考えていたのかもしれない。けれど、人は削って形になるものではない。あなたが亡くなった奥様から言われた「正しいけど、冷たい」という言葉を、四十年経っても正確に覚えている。それはその言葉を、捨てなかったということだ。捨てなかった人を、私は自分勝手とは呼ばない。

自分に問いかけるロードマップ

  1. 孫の肩が縮んだ瞬間、あなたの胸のあたりは、どんな感触でしたか。冷たかったですか、熱かったですか。
  2. あなたが「思いやり」と呼んでいるものは、具体的に誰の、どんな振る舞いを指していますか。その人はあなたより優しかったのでしょうか。それとも、単に言い方が違っただけでしょうか。
  3. 四十年、従業員に給料を払い続けた。それを「思いやり」の欄に入れなかったのはなぜですか。
  4. 明日、孫に電話をかけるとしたら、最初の一言は何になりますか。

本日の羅針盤

答えを一本にはまとめません。三つの視座を、そのまま置いておきます。

アキの視座: 優しくなろうとする前に、緊張を解くこと。自分に厳しい人の言葉は、必ず他人にも硬く当たる。

ケンゴの視座: 性格は変えられない。変えられるのは手順だ。指摘の前に一秒置く。その一秒を、四十年の職人技として身につければいい。

シオンの視座: 自分を「自分勝手」と名づけた人は、すでにその外側に立っている。名づけられるということは、見えているということです。あなたに足りないのは思いやりではなく、自分がすでに持っているものを数える習慣なのかもしれません。

やかんの音が耳に残ったのなら、それはもう静けさを聴き取れる人の耳です。

※ご家族を亡くされたあとの喪失感や、自責の念が強く続く場合は、お住まいの地域の相談窓口や心療内科など、専門機関への相談もご検討ください。

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