第二章 ― 二度という数が語りかけるもの
第一章を読み返して、胸の奥がざわつきました。私が知りたかったのは夢の法則なのか、それとも彼にもう一度会いたい自分の気持ちなのか。問われて、すぐには答えられませんでした。
正直言えば、両方なんです。怖さもあるけれど、どこかで「やっぱり縁があるんだ」と思いたい自分がいる。再会したあの日、声をかけられずに立ち尽くしていたあいだ、頭の中では「夢の通りだ」という声と、「いま動かなければ」という声がぶつかり合っていました。結局、私は動けませんでした。
よりみちナビゲーターの対話
サキ:その日のこと、もう少し聞かせてください。声をかけられなかったあと、あなたはどうやって家に帰ったんですか。
シオン:そう。問われているのは夢の場面ではない。夢が終わったあとの、現実の時間のほうだ。
サキ:きっと、いつもの道を通っていつもの最寄り駅で降りたはずなんです。でもその日の景色だけ、少し違って見えたんじゃないでしょうか。私にも覚えがあります。心が大きく揺れた日って、帰り道のコンビニの明かりすらやけにまぶしく感じる。干したばかりのタオルの匂いみたいに、何でもないものが急に輪郭を持って迫ってくる。
アキ:わかる。私もそういう日って、家に着いてもスマホを開けないんだよね。SNS見る気にもならなくて、ただベッドに座ってさっきの場面を何回も再生しちゃう。「あのとき、こう言えばよかった」って。タイムラインは更新されてるのに、自分の時間だけ止まってる感じ。
シオン:止まった時間、というのは的を射ているかもしれない。あなたは一年前から、彼との時間を止めたまま生きてきた。会わない一年は忘れる一年ではなかった。むしろその人を、心の中で保存する一年だったのではないだろうか。
アキ:ねえ、でもさ。一個だけ気になることがあって。この人、「二度続けて見ると現実になる」っていう法則を、自分で作っちゃってると思うんだよね。一年前と今回、たまたま二回とも当たった。でも、当たらなかった夢のことは覚えてないだけかもしれない。私はその「法則を握りしめてる感じ」がちょっと心配。
シオン:……アキの言葉には、鋭いものがある。
アキ:シオンの言う「保存する一年」って、すごく綺麗な言い方だと思う。でも、その綺麗さに包まれてると、この人ずっと夢を待つ人生になっちゃわないかな。次の夢を待って、また偶然を待って。私は夢じゃなくて、自分から会いに行ける人になってほしいんだよ。
サキ:そうですね。ただ、私は少し違って感じていて。アキちゃんの「自分から動いて」という気持ちはよくわかるんです。でも、この方はまだ動けなかった自分を責めている途中だと思うんです。その傷がふさがらないうちに「次は動こう」と急かすと、立ち尽くしたあの日の自分をもう一度否定することになってしまう。私は動けなかったことにもちゃんと理由があったと、まず認めてあげたい。
アキ:……あ。そっか。私、ちょっと先に行きすぎてたかも。ごめん。
サキ:いえ。アキちゃんの言うことも本当に大事なんです。両方、必要なんだと思います。
シオン:二人の言葉がいま、この方の心の中で起きていることをそのまま映している。動きたい自分と、動けなかった自分。責めたい自分と、許したい自分。その二人を無理に和解させなくていい。ただ二度同じ夢を見たという事実を、もう一度静かに見てみよう。二という数は、偶然にしては気になり、確信にするには足りない。その「あいだ」に、あなたはずっと立っている。怖いのは夢が当たることではなく、その「あいだ」に立ち続けることの、宙吊りの心地なのかもしれない。
自分に問いかけるロードマップ
第一章よりも、少しだけ深いところへ降りてみます。
私は「二度続けて見ると当たる」と思っていますが、当たらなかった夢のことをどれくらい覚えているでしょうか。覚えていないとしたらその法則は、私が選んだ記憶でできているのかもしれません。
声をかけられず立ち尽くしたあの日、私を動けなくさせたのは本当に「驚き」だけでしょうか。それとも断られることへの怖さや、関係が変わってしまうことへの不安が足を止めていたのでしょうか。
もし夢を見なくなったら、私はあの人のことを自分から思い出すでしょうか。それとも夢が来てくれることに、思い出す役目を預けてしまっているでしょうか。
本日の羅針盤
二度という数は、不思議な重さを持っています。一度なら笑って忘れられた。三度、四度と続けば、確信か恐怖になっていたかもしれません。二度はその手前。信じきれず捨てきれない、宙吊りの数です。
あなたが感じている怖さの正体は、おそらく夢の的中率ではなくこの宙吊りの状態そのものです。縁があると言い切れたら、あるいは縁などないと割り切れたら、心はずっと楽になる。けれど現実はどちらにも振り切れないまま、あなたを「あいだ」に立たせ続けています。
ここで大切なのは、その「あいだ」を無理に終わらせようとしないことかもしれません。アキの言うように、いつか自分から会いに行ける日が来るかもしれない。サキの言うように、まずは動けなかった自分を責めるのをやめることが先かもしれない。順番はあなたが決めていい。
夢は、答えを運んでくる配達人ではありません。けれど二度もあなたを揺り起こしたのなら、それは「まだ終わっていないものがある」というあなた自身からの便りなのでしょう。その便りを恐れではなく、自分への問いとして開けてみてください。
もし、夢のたびに眠ることが怖くなったりその人のことで日常の手につかなさが続くようでしたら、心の専門家に話を聞いてもらうことも決して大げさな選択ではありません。



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