「赤いリボンの女の子」は誰のためのおしゃれ?――街角でふと立ち止まった、私の小さな疑問

夕方のスーパーの入り口で、私はショッピングカートを押す手を止めた。前から歩いてきた四歳くらいの女の子が、髪に大きな赤いリボンをつけて、ふりふりのスカートを揺らしながら、お母さんの手を引いていたのだ。足元はキラキラのスニーカー。その隣を歩く同じくらいの男の子は、無地のトレーナーに動きやすそうなズボン姿で、ただ走り回っていた。

その光景を見て、ふと思った。女の子って、ずいぶん早い段階から見た目に気を使っているなぁ、と。街を歩いていると、本当によく見かける。三歳でネイルシールを貼ってもらっている子。小学校に上がる前から鏡の前でくるくる回っている子。一方で、男の子はだいたい泥だらけで、服も似たようなラインナップだ。

私にはまだ、言葉も覚束ない娘がいる。だからこそ、気になってしまったのだ。あれは親が「女の子なんだから可愛くしましょうね」と着せているのだろうか。それとも、本人が「これがいい!」と選んでいるのだろうか。もし前者なら、ちょっと窮屈な気もする。でも後者だとしたら、あんなに小さいうちから人はどうして、「装いたい」と思うようになるのだろう。レジ袋を提げながら、私はその疑問を持ち帰った。

素朴な疑問から、静かに広がっていく問い

サキさんが、湯気の立つマグカップを両手で包みながら、ゆっくりと口を開く。

「その疑問、すごくよくわかりますよね。私も子どもが生まれる前と後では、街で見かける子どもの服装の見え方が全然変わったんです。とくに女の子のおしゃれって、保育園の送り迎えのときなんかにも本当に多様で。リボンをつけたがる子、絶対にスカートを履かない子、長靴で全身を固める子。同じ三歳でも、こんなに違うんだって驚かされますよね」

「ご相談者さんが感じた『これは親の意向か、本人の意思か』という問い、たぶん答えは『どちらも、なんですよね』というところに落ち着くんです。でも、その『どちらも』の中身が、家庭によってかなりグラデーションがあるんですよ」

サキさんは、自分の娘さんのことを少し話してくれた。最初は親が選んだ服を着せていたけれど、二歳半を過ぎたあたりから「ピンクじゃなきゃイヤ」と言い出し、三歳になると保育園のお友達のヘアゴムを羨ましがるようになった、と。

「子どもって、思っている以上に周りを見ているんです。お母さんが鏡の前で口紅を塗る姿。保育園で隣の席の子が新しい靴を履いてきたこと。テレビのアニメのプリンセス。そういう情報が小さな体に少しずつ積もっていって、ある日ふっと『私もやってみたい』が芽生えるんですよね」

続いてシオンさんが、窓の外を見ながら独り言のように言葉を紡(つむ)ぎ始める。

「装うという行為は、人類が衣服を持つよりずっと前から続いてきたものではないだろうか。貝殻を首にかけ、花を髪に挿す。それは誰かに見られるためというより、自分が自分であることを確かめる、ささやかな儀式なのかもしれない」

「だから、あの子のリボンが親の趣味なのか、本人の希望なのか――その境界線は案外、私たちが思うほどはっきりしていないのかもしれませんね」

「親の意向か、本人の意思か」という二択の、その奥にあるもの

サキさんは、私がこの疑問を持ち帰ったこと自体に、何か意味があるのではないかと感じたという。

「街角で見かけた一瞬の光景を、家まで持ち帰って考えてみる。それってご相談者さんの中に、何か小さな引っかかりがあったからだと思うんです。たとえば、もうすぐ自分の子にも『どこまで親が選んで、どこから本人に任せるのか』という場面が訪れるとか。あるいは自分自身が子どもの頃、『着たい服』と『着せられた服』のあいだで感じた何かの記憶が、ふと蘇ったとか」

「親の意向か、本人の意思か。この二択で考えると、つい『本人の意思のほうが健全』と思いがちなんですけど、そんなに単純な話でもないんですよね。小さな子どもの『これがいい』は、その日の気分やたまたま目にしたキャラクターに大きく左右されますし。親が用意した選択肢の中から選んでいるという意味では、完全に自由とも言えない」

「でも、それでいいんだと思うんです。子どもは与えられたものと自分の好みを行ったり来たりしながら、少しずつ『私はこれが好き』を見つけていく。親はその往復のための、最初の小さな舞台を用意しているだけ、というか」

結論:街で見かける小さな女の子のおしゃれは「親の意向」と「本人の意思」のどちらか一方ではなく、その二つが日々静かに混ざり合った結果です。親が選んだ服に本人が愛着を持ち、本人が選んだものを親が肯定する。その小さな往復のなかで、子どもは「自分らしさ」の輪郭を少しずつ描いていきます。素朴に見えた疑問の奥には、人が装うことの意味そのものが、ひっそりと横たわっているのかもしれません。

※本記事は子育てや人間観察にまつわる読み物であり、特定の家庭の方針や子育て論を断定するものではありません。お子さんの発達や行動について気になる点がある場合は、自治体の子育て相談窓口や小児科などの専門機関にご相談ください

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