ADHD小1の娘を育て、もう限界。泣き叫ぶ娘と眠れない母の処方箋

「この子がいなければ」は、私が弱いだけでしょうか

夜の十時を過ぎて、ようやく娘が眠りました。リビングの蛍光灯の下、ダイニングテーブルには夕食の味噌汁の輪染みが残っていて、それを布巾で拭き取る指先が、自分のものではないみたいに重いんです。

小学一年生の娘が、今日もまた泣き叫びました。きっかけは私が「もう一回言うけど、ランドセルは玄関に置かないで」と少し声を強めたこと、それだけです。手は挙げていません。一度も。夫も同じです。それなのに娘は、まるで体ごと殴られたかのような声で泣くんです。アパートの薄い壁の向こうにお隣さんの咳払いが聞こえた気がして、私は反射的に窓を閉めました。

三歳の検診で発達障害だと言われたとき、正直、ほっとした自分がいました。生まれた直後から授乳が上手くいかず、夜泣きの質も周りの子と違って、抱っこしても背中を反らせて拒むような子だったんです。「やっぱり、私のやり方が悪かったわけじゃなかった」と思いたかった。でも、診断名がついたからって、毎朝の登校班に間に合わせる戦争が終わるわけじゃないんですよね。

昨日の夜、お風呂のお湯を抜きながら、ふっと、本当にふっと、「この子がいなければ」という言葉が頭をよぎりました。一秒もしないうちに打ち消したけれど、自分の中からそんな雑念が湧いたという事実だけは、排水溝に吸い込まれずに残っていて。今もこうして、湿ったタオルみたいに胸の奥に貼り付いています。

同じようにADHDのお子さんを育てているお母さん。やっぱり、大変でしたか。私が弱いだけでしょうか。

サキとシオン、深夜のキッチンで聞く話

サキ:読ませていただいて、まず最初に伝えたいのは──「この子がいなければ」と一瞬でも思ってしまった自分を、責めなくていいということですね。それは母親失格のサインじゃないんですよ。長く張り詰めていた糸が、夜の静けさの中でほんの少しだけ、自分の本音を漏らしただけ。あなたが冷酷なんじゃなくて、それだけ昼間ずっと、感情を呑み込んできたという証拠ですよね。

シオン:娘さんの泣き声があなたには「虐待されているかのよう」に聞こえるとき、ご近所の耳がいちばん気になる。それはあなたが世間の物差しをずっと内側に持ったまま、子育てをしてきたということではないだろうか。

サキ:そうなんですよね。ADHDのお子さんは感覚の入り口がとても繊細で、私たちが「少し強めに言った」と感じる程度の声でも、本人にとっては雷のような衝撃で受け取ってしまうことがあるそうです。これは文部科学省や厚生労働省の発達障害の解説資料で触れられている、「感覚過敏」という特性ですね。お母さんの怒り方が悪かったわけじゃない。娘さんの受信機の設定が、もともと敏感に作られているということなんです。

シオン:つまり、あなたが「私が悪いのか」と問い続けてきた何年かは、本来答えのない問いに自分を擦り減らす時間だったのかもしれない。

サキ:あと、もうひとつだけ。手を挙げていないお母さんが「虐待しているように見られたら」と怯えるのは、すごく真面目な人ほど抱える感覚なんですよね。本当に手を挙げてしまう人は、こういうふうに眠れない夜を過ごさないんです。あなたが今、台所の灯りの下でこの言葉を綴っているという事実そのものが、あなたが踏みとどまっている証ですよ。

診断──「私が悪い母」という認知の罠

サキ:お話を読みながらいくつか、絡まっている糸が見えてきました。

ひとつめは、「泣き声の大きさ=自分の加害の大きさ」だと結びつけてしまう罠です。
娘さんの反応の強さは、あなたの声の強さと比例していません。これは因果関係ではなく、娘さん側の特性による増幅なんですね。ここを切り離せると、少しだけ呼吸が楽になります。

ふたつめは、「同じADHDのお子さんを育てた方は、やっぱり大変でしたか?」という問いの裏にある渇きです。あなたが本当に聞きたかったのは「大変だったかどうか」じゃなくて、「こんな雑念が湧く自分を、それでも母親と呼んでいいのか」ということではないですか。前者は情報の質問ですが、後者は赦しを求める声ですね。

シオン:三つめに、もうひとつ付け加えておきたい。あなたは「産まれてきた時から大変だった」と書かれた。けれどその「大変」を七年間、誰にも責めさせず誰にも預けず、ひとりで抱えてきたという事実を、あなた自身の中で十分に労(ねぎら)われていないのではないだろうか。

本質的な結論:あなたに今いちばん必要なのは、「育児スキルの向上」でも「もっと頑張ること」でもありません。あなた自身が誰かに、「よく耐えてきましたね」と言われる側に回ることです。
娘さんの特性への対処法は、専門家と一緒に組み立てればいい。けれどお母さんの心の摩耗は、お母さんを支える人の手を借りないと、止血できないんです。
お住まいの自治体の「発達障害者支援センター」や子ども家庭支援センターには、保護者の相談枠が必ずあります。娘さんのためでなくあなた自身が話を聞いてもらうために、一度だけ電話をかけてみてください。それは弱さではなく、長く伴走するための最も賢い補給です。

参考にできる公的窓口

  • 各都道府県・指定都市に設置されている「発達障害者支援センター」(保護者からの相談を受け付けています)
  • お住まいの市区町村の「子ども家庭支援センター」または「子育て世代包括支援センター」
  • 厚生労働省の電話相談窓口「よりそいホットライン」(24時間・無料)

※具体的な電話番号やURLは、お住まいの自治体名と合わせて検索すると、最新かつ正確な情報にたどり着けます。

よりみちナビゲーター

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