ADHD小1の娘を育て、もう限界。泣き叫ぶ娘と眠れない母の処方箋

第三章:眠れない母と、眠れない娘──夜という時間を、味方につける

娘が眠ったあと、私はすぐには動けません。リビングのソファに腰を下ろして、しばらく天井のシミを眺めています。やっと一人になれた、と思うのに、その「一人の時間」をどう使えばいいか分からないんです。スマホを開いて、特に見たいわけでもないSNSを延々とスクロールして、気づくと深夜一時を過ぎています。

朝は六時半に起きないと、娘の登校に間に合いません。逆算すれば五時間半しか眠れない。でも布団に入っても、すぐには寝つけないんです。明日の連絡帳に何を書くか、給食袋を洗ったか、明後日の家庭訪問の部屋の片付け──頭の中で予定がぐるぐる回って、ようやく眠れたと思ったら、娘が「のど渇いた」と起きてくる。朝起きると、首と肩が石みたいに固まっています。

娘も寝つきが悪い子です。電気を消しても三十分はベッドの中でゴソゴソしていて、ようやく寝たと思ったら、夜中に二回くらい起きます。私たち親子そろって、ずっと眠れていないのかもしれません。

サキとシオン、夜更けのリビングで聞く話

サキ:第二章で「食の土台」のお話をしましたよね。今回はその対になる、もうひとつの土台──睡眠の話をさせてください。

読ませていただいてまず気づいたのは、あなたが「やっと一人になれた時間」を休息ではなく、消費に使ってしまっていることです。
スマホをスクロールする一時間、これは休んでいるように見えて、実は脳がずっと働き続けている時間なんですよね。育児の緊張から解放された反動で、ようやく自分のために何かしたい、という渇きが押し寄せる。でも、その渇きをSNSで埋めても、翌朝の体は何ひとつ回復していない。これ、お母さんあるあるなんです。

シオン:「一人の時間」と「休息の時間」は、似ているようで別のものではないだろうか。前者は単に他者がいない状態を指すが、後者は自分自身と和解している状態を指す。

サキ:ADHDのお子さんと添い寝しているお母さんは、自分の睡眠を「子どもの睡眠の付録」にしてしまいがちなんです。娘さんが夜中に二回起きるなら、お母さんの眠りも二回中断される。表面的には「五時間半睡眠」でも、中身はもっと薄い、ちぎれた眠りなんですよね。

シオン:ちぎれた布で身体を覆っても、夜の冷えは防げない。眠りもまた、連続性によってのみ回復という機能を果たす。

娘さんが寝つけない理由──ADHDと睡眠

サキ:娘さんが電気を消してもゴソゴソしている時間、あれは「寝ようとしていない」のではなくて、「寝るための切り替えができない」状態なんです。

ADHDのお子さんは、脳の覚醒水準を自分で下げるのが苦手だと言われています。日中フル回転していたエンジンを、急にアイドリングに落とせない。だから布団に入ってからも、頭の中で今日あったことや明日のことが渦を巻き続ける。
夜中に起きやすいのも、深い眠り(ノンレム睡眠)の時間が定型発達のお子さんより短くなりやすいことが、複数の睡眠研究で報告されています。

これはしつけや寝かしつけのテクニックの問題ではないんですね。脳の特性として、そういう設計になっているということ。「寝かしつけが下手なお母さん」なんて、存在しないんですよ。

シオン:あなたは長い間、自分の腕の中で眠ってくれない娘を自分の力不足の証だと思い込んできたかもしれない。けれどそれは腕の問題ではなく、夜という時間の翻訳の問題ではないだろうか。

「親子の睡眠」を、別々に設計する

サキ:ここから、すごく実用的な話をします。三つだけ、提案させてください。

ひとつめ:「就寝儀式」を娘さんと共有する。

ADHDのお子さんは、行動の切り替えに「予告」と「順序」が必要です。毎晩、同じ順番で同じことをする──たとえば「お風呂→歯みがき→絵本一冊→部屋を暗くする→お母さんが横で深呼吸三回」。
この一連の流れを、毎晩寸分違わず繰り返すと、脳が「次は眠る時間だ」と予測できるようになります。最初の二週間はうまくいかなくても、三週目あたりから明らかに寝つきが変わるご家庭が多いんです。

ふたつめ:お母さんの「就寝時刻」を死守する。

娘さんが寝た後の「自分時間」を、完全に手放せとは言いません。ただ、三十分だけと決めてタイマーをかけてください。スマホでもキッチンタイマーでもいい。鳴ったら問答無用で布団に入る。
最初の三日は名残惜しくて辛いです。でも、一週間続けると朝の首の固さが明らかに変わります。「自分時間」は、量ではなく質なんですよね。三十分でも罪悪感なく座って過ごせれば、二時間のスクロールより遥かに回復します。

みっつめ:寝室から、明日の心配事を追い出す。

枕元にメモ帳を一冊置いてください。布団に入ってから「明日あれをやらなきゃ」と浮かんだら、起き上がってメモに書く。書いたら、もう考えない。
これは認知行動療法の不眠治療でも使われている手法で、「思考を脳から紙へ移管する」という外部化の作業です。頭の中で抱えているから眠れない。紙に渡してしまえば、脳は「今夜の仕事は終わった」と判断します。

シオン:夜という時間は、長いあいだあなたにとって「ようやく解放される時間」と「明日への不安が押し寄せる時間」が同居する場所だった。けれど本来、夜はその日を一度終わらせるための静かな儀式の場ではないだろうか。

それでも眠れない夜のために

サキ:もし、これらを試しても二週間以上、寝つきの悪さや中途覚醒が続くようなら、それは生活習慣の範囲を超えているサインかもしれません。慢性的な不眠は産後うつや育児ストレスによる適応障害の初期症状として現れることもあるんです。

かかりつけの内科でも、睡眠の相談はできます。「眠れないんです」と一言伝えるだけで、必要に応じて心療内科や精神科への紹介状を書いてもらえることが多いです。心療内科というと身構えてしまうかもしれませんが、いまは風邪で耳鼻科に行くのと同じ感覚で訪れる方が増えています。

本質的な結論:「眠れない母」と「眠れない娘」は同じ夜を共有しながら、別々の理由で眠れずにいます。だから解決策も、別々に設計しなければならないんですね。
娘さんには「就寝儀式」という予測可能性を。
お母さんには「タイマーで区切る三十分」と「枕元のメモ帳」を。
睡眠は根性で確保するものではなく、設計で確保するものです。
そして第二章の「食」と今回の「睡眠」、この二つの土台が整って初めて、第四章以降で扱える「人との関わり」や「制度の活用」が機能し始めます。
順序を飛ばして頑張ろうとするから、崩れるんですよね。今夜まずタイマーを一つ、用意してみてください。

参考にできる情報源

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド」(成人および子どもの睡眠に関する公的指針)
  • e-ヘルスネット(厚生労働省運営/睡眠と健康に関する一般向け解説サイト)
  • 各都道府県・指定都市の「精神保健福祉センター」(睡眠を含むメンタルヘルス相談を無料で受け付けています)
  • かかりつけ内科/心療内科(睡眠相談は内科経由でも可能)

※具体的な連絡先は、お住まいの自治体名と「精神保健福祉センター」または「睡眠外来」で検索すると最新情報にたどり着けます。

よりみちナビゲーター

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