便りを出す口実を探してしまう私へ
私は北陸の小さな町で暮らす、二十代半ばの女です。地元の信用金庫に勤めていて、休みの日は祖母と一緒に畑をいじったり、古い喫茶店で本を読んだりして過ごしています。特別なことは何もない、穏やかな日々です。
二年ほど前、大学時代の友人の結婚式で四国を訪れたとき、一人の男性と知り合いました。新郎の従兄だという、少し年上の穏やかな人でした。式のあいだ隣の席になって他愛のない話をしただけなのに、なぜかその人のことが忘れられなくなってしまったのです。
それから年に一度か二度、私は口実を作っては四国へ出かけていきます。その人に会いたい一心で。でも、会える時間はほんのわずかです。その合間に、私という存在があの人の中から薄れていってしまうのがたまらなく怖いのです。
だからたまに、便りをはがきにしたため送っています。けれど出す口実といえば、年賀状、暑中見舞い、クリスマスカードくらいしか思い浮かびません。一年にたった三度きり。それ以外に便りを送る自然な口実はないものでしょうか。
よりみちナビゲーターの対話
アキ: これ読んで、なんか胸がぎゅっとなっちゃった。年に一、二度しか会えない人のことを、それでもずっと想ってて便りの口実を探してる。しかも「会いたい一心で口実を作って四国へ行く」って、もうこれ、完全に好きじゃん。この気持ち、私すごくわかるよ。会える時間が短いからこそ、その隙間を何かでつないでおきたいんだよね。
でもさ、一番気になったのは「口実」って言葉なんだ。なんで口実がいるんだろうって。「畑で採れたトマトがおいしかったので、ふと思い出して書きました」で、もう十分はがきになると思うんだよね。理由なんて、本当はいらないんじゃないかな。
サキ: その気持ちはよくわかります。ただ、この方が「口実」という言葉を選ばれたところに、私はむしろ誠実さを感じたんです。脈絡なく便りを送ったら、相手を戸惑わせてしまうかもしれない。まして相手は少し年上の男性で、間柄もまだ浅い。その配慮の裏返しなんですよね。だから慎重に口実を探していらっしゃる。
アキ: あ、たしかにそっか。相手への気づかいなんだね。
ケンゴ: 二人の見方に異論はない。ただ、少し実務的な話をさせてもらいたい。季節の便りというのは、実のところ三つどころではないんだ。立春の寒中見舞い、桜の便り、梅雨明けの候、紅葉、初雪。日本には二十四節気というものがあって、暦の上では二週間ごとに季節の名前が変わる。口実を探すなら、実はほぼ無限にあるというのが事実だ。
サキ: ケンゴさんのおっしゃる通りですね。「桜が咲きました」「今年は栗が豊作です」くらいの、生活のひとかけらで十分なんですよ。むしろそういう何気ない便りのほうが、受け取ったときに心が動くものです。
アキ: ケンゴさんの言うことも、サキさんの言うこともわかる。ただ──あのね、私はやっぱり口実の数のことより、この人の「怖い」って言葉に戻りたいんだ。忘れられるのが、たまらなく怖い。この不安を口実を増やすことで解消しようとすると、たぶん逆に苦しくなると思うんだよね。
ケンゴ: ……というと。
アキ: はがきを出す口実を探してる状態って、「私を覚えてて」ってお願いし続けてる状態でもあると思うんだ。でもさ、覚えていてもらうって、こっちが頑張り続けることなのかな。この子、二年間ちゃんと想い続けて会いに行ってるじゃん。それって相手にも、きっと何か残ってると思うんだよ。
サキ: この方、年に一、二度、北陸から四国まで自分から会いに行っておられるんですよね。それってはがき何十枚分もの重みがあると思うんです。忘れられる心配は、そんなにしなくてもいいのかもしれません。
アキ: うん。それにね、私が本当にこの子に伝えたいのは──口実を探すより、一回口実なしで送ってみてもいいんじゃないかなってこと。「あなたのこと、ふと思い出しました」って。それが一番、この子の気持ちに正直な便りだと思うから。口実って、気持ちを隠すためのものにもなっちゃうからさ。
自分に問いかけるロードマップ
- 「忘れられたくない」という気持ちの奥には、何がありますか。ただ会えない寂しさでしょうか。それともこの人との縁を失ってしまうことへの怖さ、あるいはこの想いを届けたいという願いでしょうか。
- はがきを出す「口実」が必要だと感じるのは、相手への配慮からですか。それとも、理由がなければ想いを表に出していけないというご自身の中のブレーキですか。
- もし相手の方から、季節にも用事にも関係のないふとした便りが届いたら、あなたはどう感じますか。負担でしょうか。それとも、うれしいでしょうか。その答えの中に、相手の気持ちを推し量るヒントがあるかもしれません。
本日の羅針盤
口実は、探せばいくらでもあります。ケンゴが言うように暦は二週間ごとに表情を変え、寒中見舞い、桜、梅雨明け、紅葉、初雪と、便りのきっかけは一年を通じて途切れることがありません。「立春のご挨拶」「そちらは桜が咲きましたか」──それだけで、はがきは成立します。まずは便りの機会は、三度きりではないと知っておいてください。
けれど、アキが差し出したもう一つの問いも、そっと胸に置いておいてください。忘れられまいとして頑張り続けることと、静かに想いが届いていくことは、必ずしも同じではないのかもしれません。年に一、二度、遠い土地まで会いに行くという行いは、それ自体がもう言葉を超えた便りになっています。
そしていつか、勇気が出たなら。口実を一つも用意せず、「ふとあなたを思い出しました」とだけ書いた一枚を送ってみてもいいのかもしれません。口実は便りを出すための味方であると同時に、あなたの本当の気持ちを覆い隠す蓋にもなります。その蓋をいつか外してみる日が来ることを、静かに願っています。





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