もう待たない。未婚の妊娠から「子どもの権利」を守る母になるロードマップ

第三章 ―― 「お願い」を、「権利」と呼びかえる日

ノートの四つの塊のうち、私が一番後回しにしたのは彼のことでした。

認知、養育費。言葉としては分かっている。でも、いざ彼に切り出そうとすると指が止まるんです。まるで別れた相手にお金をせびる女みたいだと、どこかで思ってしまう。そんなつもりはないのに。彼が「今はこれ以上背負えない」と言ったときのあの疲れた声が耳に残っていて、これ以上彼を追い詰めたくないという気持ちまで湧いてくる。

私はいつから、自分の子どもの権利を「お願い」だと思うようになったんだろう。


よりみちナビゲーターの対話

サキ:この最後の一行を読んで、私は少し胸が詰まりました。「自分の子どもの権利をお願いと思うようになった」――あなたはちゃんと気づいているんですね。気づけているということが、もう半分答えに近づいている。

ケンゴ:そこは私からはっきり言いたい。認知は子どもが父親と法的に親子であると認められること。養育費は、その親子関係から当然に生じる、子を育てるための費用だ。これはあなたが彼に「与えてもらう」ものではない。子どもが生まれながらに持っている権利を、あなたが代わりに守っているにすぎない。

アキ:「お金をせびる女みたい」って思っちゃうの、私すごくわかる。でもね、それって誰の声なんだろう。あなた自身が本気でそう思ってるんじゃなくて、世間がそう言いそうだから先回りして自分を責めてるんじゃない?

サキ:……アキさんの言うこと、私も感じました。ただ、一つだけ違う角度から言わせてください。

アキ:うん。

サキ:あなたが彼を追い詰めたくないと思う、その優しさ自体は否定しなくていいんです。それはあなたがまだ彼を、一人の人間として大事に思っている証でもある。問題はその優しさが、子どもの分まで譲ってしまうところまで来ていること。自分の取り分を譲るのは自由です。でも、子どもの取り分はあなたのものではないから、譲る権利がそもそもあなたにはないんですよ。

ケンゴ:……サキの言い方が、私の理屈より正確だ。私は「権利だ」と言ったが、サキは「譲る権利があなたにはない」と言った。後者の方が、彼女の心の引っかかりにまっすぐ届いている。

アキ:ケンゴさん、今日二回目の白旗じゃない?(笑)

ケンゴ:事実を認めるのにメンツは要らない。

サキ:(笑)でも本当にそうなんです。「子どものために」と思えば動けるのに、「自分のために」と思うと足がすくむ。あなたはきっと、後者のままで彼に向き合おうとしていた。だから指が止まったんですよね。

これまで黙って耳を傾けていたシオンが、静かに口を開く。

シオン:……みんなの話を聞いていて、ひとつ思ったことがある。あなたは「彼を追い詰めたくない」と言う。けれど、彼を追い詰めているのは本当にあなたなのだろうか。彼が背負えないと言ったその荷物は、もともと彼自身のものではなかっただろうか。あなたが代わりに持ってあげているうちに、いつの間にかそれを返すことが「追い詰める」ことのように見えてきた。荷物の持ち主が入れ替わってしまっているのかもしれない。

アキ:……シオン、相変わらず急に深いとこ突いてくるなあ。

シオン:いつか彼が結婚すると言った、その「いつか」。あなたはそれを待っていると思っているかもしれない。けれど、待っているのは本当に結婚だろうか。それとも、彼が荷物を自分の手に取り戻す日を待っているのだろうか。答えはいま出さなくていい。ただ、夜にノートを開くとき、その問いを一行書き添えてみるといい。


自分に問いかけるロードマップ

  • 私が「お金をせびる女みたい」と感じるとき、それは私自身の声だろうか。それとも、世間がそう言いそうだと先回りして自分を責める声だろうか。
  • 私は自分の取り分と子どもの取り分を、混ぜて考えてしまっていないか。子どもの取り分はそもそも、私が譲れるものではないのではないか。
  • 彼を「追い詰めたくない」という優しさはどこまで私のもので、どこから子どもの分まで譲っているだろう。
  • シオンの問い――私が待っているのは「結婚」だろうか。それとも、「彼が自分の荷物を取り戻す日」だろうか。

本日の羅針盤

第三章の核心は、言葉の置きかえにあります。「お願い」を「権利」と呼びかえること。

サキの視点では、あなたが譲ろうとしているのはあなたのものではない――子どもの取り分です。自分の優しさは大事にしながらも、子どもの分まで譲ることはできない。この一線を引くだけで、指の止まりは少しほどけます。

ケンゴの視点では、認知も養育費も子が生まれながらに持つ権利であり、彼の善意を待つものではありません。具体的には出産後、父子関係を法的に整える手段(認知届、応じない場合の認知調停)があり、それが養育費請求の土台になります。いちど専門の窓口で全体像を聞くだけでも、心の負担は変わります。

シオンの視点は、あなたが本当に待っているものの正体を静かに見つめ直すこと。結婚を待っているのか、それとも彼が自分の責任を引き受ける日を待っているのか。答えは急がなくていいのです。

あなたはもう、「自分の子どもの権利をお願いだと思うようになった」と、自分で気づけている。その気づきこそが、呼びかえの第一歩です。

なお、認知や養育費の具体的な進め方については、自治体のひとり親相談窓口や、法的な無料相談の場で確認することをおすすめします。一人で交渉を抱え込む前に、間に立ってくれる専門家の存在を知っておくこと自体が、あなたを守る支えになります。

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