雪解けを待たずに歩き出す。32歳・中卒からの「働き直し」と小さく始める高卒認定

雪解けを待つより、今日、傘を差して歩き出す

私は32歳、独身の男です。北関東の、冬になると北風だけがやたら強い平野の町で、ワンルームの部屋を借りて暮らしています。
学校というものが、ずっと苦手でした。教室にいると、黒板の文字がなぜか頭の中でばらばらにほどけて、意味を結ばない。中学の頃、いくつかの授業だけ別の小さな部屋で受けさせてもらっていました。あの部屋のストーブの匂いと、蛍光灯のちりちり鳴る音を今でも覚えています。

定時制の高校に一度は入りました。でも、そこにあの小さな部屋はなくて、みんなと同じ速度で進む授業に、私だけがぽつんと取り残されていく感覚です。三ヶ月ほどで、行かなくなりました。それから後、働いた記憶は通算しても三年ほど。コンビニの品出しと、短い工場の仕事。あとの数年間は、部屋の中で時間だけが積もっていきました。

三十を過ぎたあたりから、急に「高卒」という三文字が、喉の奥に刺さった魚の小骨みたいに気になり始めたんです。今の私の町には、公立の通信制高校がありません。私立ならあるけれど、学費が要る。親を頼ることはできません。
学費を貯めるために働くべきか、いや、それならいっそ、資格なんて後回しにして正社員の口を探すべきなのか。
高卒認定という制度も調べました。でも、あれは大学へ行く人のためのもので、学歴の欄には結局「中卒」と書くのだと知ってまた一歩、足が止まりました。

私は何から、手をつければいいんでしょうか。

よりみちナビゲーターの対話

アキ:まず、これだけは言わせて。三十過ぎて「学び直したい」って自分の口から言えたこと、それめちゃくちゃ大きいことだよ。多くの人はさ、諦める理由を探してそのまま蓋しちゃうんだ。あなたは蓋を開けた。小骨が刺さったって書いてたよね。それ、痛いけど、生きてる証拠だと思う。

ケンゴ:気持ちの部分には私も同意する。ただ、冷静に整理したい。高卒認定について「学歴上は中卒」という理解があるようだが、これは半分正確で、半分もったいない誤解だ。
高卒認定は大学受験資格だけでなく、多くの企業の採用基準や公務員試験、専門学校の入学要件で「高卒同等」として扱われる場面が実際にある。「大学へ行く人だけのもの」と切り捨てるのは、選択肢を一つ自分で潰すことになる。

アキ:ケンゴの言うこと、正しいのは分かるよ。……ただね、私が気になったのは、この人が「何から手をつければ」って書いてる、その手が今、止まってるってことなんだ。制度が正しいかどうかより先に、まず今日の自分を救ってあげないと。数年間、部屋で時間が積もったって書いてたよね。その時間を「無駄だった」って責めないでほしい。あなたはずっと、次の一歩を探し続けてたんだよ。

サキ:おふたりの言うこと、どちらも分かります。ですよね。ただ、私は生活の側から一つだけ言わせてください。学費が貯まるまで働くという選択は、とても現実的で立派です。でも、朝起きて働いて、疲れて帰って、それでも通信制の課題に向かう——その毎日が本当に回るのか。無理を重ねてまた部屋に籠もる日が来たら、今度こそご自分を許せなくなってしまう気がして。明日の朝、ちゃんと起きられる暮らしの中に学びを置けるかどうか。そこを一番に考えてほしいんです。

ケンゴ:サキの指摘は重い。私はつい五年後から逆算する癖があるが、逆算した計画も、初日に倒れれば絵に描いた餅だ。……そうだな。ならば提案を変えよう。いきなり全部を背負わず、まず高卒認定の科目を一つか二つ、独学で受けてみる。合格した科目は生涯有効だ。「自分にもできた」という一勝を、先に手に入れる。

アキ:それ、いいね! ケンゴ、今のは冷たい正論じゃなくてあったかい戦略だよ。ねえ、聞いて。あなたは「正社員か、資格か」の二択で苦しんでるけど、その二つ、敵同士じゃないよ。働きながら、月に一科目ずつ小さく削っていく。それでいいんだ。

サキ:ところで、ご本人のお話に戻りますが——中学のあの小さな部屋のストーブの匂いを、覚えていらっしゃるんですよね。あの場所は、あなたにとって「守られて学べた場所」だったのではないでしょうか。今度は、その小さな部屋を、ご自分で作ってあげる番なのかもしれません。誰かのペースじゃなく、あなたの速度で。

シオン:…… 一つだけ、いいだろうか。あなたは雪解けを待っているように見える。準備が整うのを、条件が揃うのを待っている。だが、雪はいつ解けるとも知れない。傘を差して、まだ冷たい道を数歩だけ歩く——その数歩は、雪が解けるのを待つ時間とはまるで違う重さを持つのではないか。急がなくていい。ただ、待つのと歩くのは違う。

自分に問いかけるロードマップ

  • 私は「中卒だから」という一言で、まだ試してもいない選択肢まで、自分で閉じてしまっていないか。
  • 「高卒資格か、正社員か」——本当に、どちらか一方しか選べないのだろうか。両方を小さく、同時に始める道はないか。
  • 数年間の空白を、私は「失った時間」と決めつけている。でも、その時間があったから今「学びたい」と思えたのだとしたら、それは失われたものだろうか。
  • 明日の朝、無理なく起きられる暮らしを壊さずに続けられる一歩は、どれだけ小さくてもいい。その一歩は何か。

本日の羅針盤

答えを一つに束ねることはしないでおきます。

アキは言いました。今日の自分を、まず救えと。
ケンゴは示しました。高卒認定は「中卒」で終わる道ではなく、一勝を積み上げる戦略の起点になり得ると。
サキは問いました。その計画で、明日の朝も回るのかと。
そしてシオンは、待つことと歩くことの違いを静かに置いていきました。

四つの声に共通していたのは一点だけです。あなたは二択で立ち尽くす必要はない。働きながら、科目を一つずつ削る。倒れない速度で、小さな一勝を先に取る。雪解けを待って動き出すのではなく、今日、傘を差して数歩だけ歩く。その数歩の積み重ねの先に、あなたが探している「高卒」の三文字も、正社員の椅子も、両方とも見えてくるはずです。

なお、社会と接点が薄い期間が長く続いたあとの再スタートは、一人で抱え込まず、お住まいの地域の「地域若者サポートステーション(サポステ)」など、就労と学び直しの両方を無料で相談できる公的な窓口を訪ねることもご検討ください。専門の支援員があなたの町の実情に合った具体的な一歩を、一緒に探してくれます。

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