雪解けを待たずに歩き出す。32歳・中卒からの「働き直し」と小さく始める高卒認定

「続かない自分」を、まず働くことで裏切る

前章のあと、私はしばらく天井を見て考えていました。正直に言えば、計画を立てて続いたためしが、私にはありません。中学の頃も、宿題は積み上がったまま黄ばんでいった。定時制も、三ヶ月で足が向かなくなった。「働きながら月に一科目」——聞こえはいい。でも、それが続く自分の姿が、どうしても像を結ばないんです。

私に足りないのは、たぶん知識じゃない。机に向かい続ける、その一番地味な力なのだと思います。だとしたら、学費を貯めるとか科目を削るとかする前に、まずどこかに勤めてみることなんじゃないか。逃げずに、覚悟を決めて。仕事の中で、社会というものや人との距離の取り方、自分が何に耐えられて何に耐えられないのかを体で覚える。学歴を考えるのは、それからでも遅くないんじゃないか——そう思い始めています。

よりみちナビゲーターの対話

ケンゴ:その順序は、正しいと思う。私は前章で「小さな一勝を先に」と言ったが、あなたが自分を「机に向かい続ける力が弱い」と分析したことのほうが、はるかに価値のある一勝だ。
自分の弱点を正確に言語化できる人間は、そう多くない。ならば戦略はこうだ。今のあなたにとって最も現実的な「学びの場」は、教科書ではなく職場だ。決まった時間に行き、決まった仕事をやり遂げる。その反復そのものが、後々の学習を支える筋力になる。順序を逆にして正解だと、私は考える。

アキ:……うん。ケンゴの言うこと、今回は本当にそうだなって思う。思うんだけど——ちょっとだけ待って。「学ぶ姿勢を欠いてきた」って、あなた自分で書いてたよね。私、それだけはそのまま頷きたくないんだ。

ケンゴ:というと。

アキ:だってさ、この人、中学の別室のストーブの匂いを覚えてる。蛍光灯の音まで覚えてる。それってその場所で、必死に「学ぼう」としてた証拠だよ。学ぶ力がなかったんじゃない。教室のやり方が、この人の学び方とただ合ってなかっただけ。「私は続かない人間だ」って、何十年もかけて自分に刷り込んできただけなんじゃないの? そこを「弱点」って確定させて話を進めるの、私はちょっと怖い。

ケンゴ:……なるほど。アキの言うことも分かる。ただ、私はこう考える。「本当は学べる」と励ますことと、「今は学べる状態にない」と認めることは、矛盾しない。潜在能力の話と、今日この足で立てる場所の話は別だ。彼が今すぐ通信制に飛び込んでまた三ヶ月で倒れたら、「やっぱり自分はダメだ」という刷り込みをもう一段深くしてしまう。まず働くというのは、その刷り込みを避けるための、むしろ優しい迂回路だと私は思う。

サキ:おふたりの言うこと、どちらも分かります。ですよね。……私、台所で洗い物をしながら、こういうことをよく考えるんです。「続く」って才能じゃなくて、環境なんじゃないかって。私自身、完璧にやろうとして何もかも続かなかった時期がありました。続くようになったのは頑張ったからじゃなくて、朝、同じ時間に同じ場所へ行く、その一つだけを暮らしに埋め込んだからなんです。だからまず働くというあなたの選択に、私も賛成です。ただ一つだけ。

アキ:うん。

サキ:「覚悟を決めて頑張る」——その言葉に、私は少しだけはらはらします。覚悟や気合いで乗り切ろうとすると、折れたとき折れた理由が全部「自分の弱さ」になってしまう。そうではなくて、続く「仕組み」を選んでほしいんです。いきなりフルタイムの正社員で歯を食いしばるより、まずは週に何日か、体が壊れない働き方から。仕事の中から社会を学ぶというあなたの考えは、本当に真っ当です。だからこそその学びの場を、三ヶ月で失わない働き方から始めてほしいんです。

アキ:……そっか。サキさんの言い方、すごくしっくりきた。ねえ、聞いて。私さっき「弱点って確定させるの怖い」って言ったけど、みんなの話聞いてて分かった。あなたが「まず働く」って決めたこと、それ全然、逃げでも妥協でもない。むしろ自分の身の丈を測って、一番倒れにくい場所から始めようっていうすごく賢い選択だよ。学ぶことを諦めたんじゃなくて、学ぶ順番を自分で決め直したんだ。それ、立派な「学ぶ姿勢」そのものだよ。

シオン:……先ほどから、皆の話を聞いていた。一つだけ、置いていってもいいだろうか。あなたは「学歴を考えるのは、それからでも遅くない」と書いた。私にはそれが、妥協の言葉には聞こえない。むしろ時間というものを、あなたが初めて味方につけようとしている言葉に聞こえる。
急いで手に入れた紙切れが人を支えることもあれば、遠回りして耕した歳月が、後になって思いがけない実りになることもある。あなたが働きながら見るもの、聞くもの、耐えるもの——それはどこにも記録されない学歴かもしれない。
だが、記録されないものが人を育てないと、誰が決めただろうか。学歴は後から追いかけてきていい。あなたが生きることをやめさえしなければ。

自分に問いかけるロードマップ

  • 私は「続かない」を、能力の欠如だと思ってきた。でもそれは、自分に合わない環境からたまたま続かなかっただけではないか。
  • 「覚悟を決めて頑張る」——この頑張りは、折れたときに自分を責める頑張りか。それとも折れない仕組みを選ぶための頑張りか。
  • まず働くと決めた今、私が最初に選ぶべきは「一番きつい職場」ではなく「一番続けられそうな職場」ではないか。
  • 仕事の中で社会を学ぶとして、何を「学べた」と自分に言えたら、次の一歩へ進めるのだろう。

本日の羅針盤

今回、四つの声はめずらしく、あなたの選んだ順序を支持しました。

ケンゴは言いました。まず働くという順序は戦略的に正しく、反復こそが後の学習を支える筋力になると。
サキは念を押しました。それを「覚悟」ではなく「仕組み」で、三ヶ月で失わない働き方から始めよと。
アキは、あなたが自分に刻んだ「学べない人間」という烙印に異を唱えたうえで、「学ぶ順番を決め直した」その判断こそ、学ぶ姿勢だと言い切りました。
そしてシオンは、記録されない歳月もまた人を育てるのだと、静かに置いていきました。

まとめれば、こうなります。
まず、勤める。その決断は逃げではなく、順番の設計です。ただしいきなり全力で握りしめるのではなく、倒れない働き方から。
学歴はあなたが生きることをやめない限り、いつでも後から追いかけてこられます。仕事の中で「自分は何に耐えられ、何に耐えられないか」を体で知ったそのとき、学び直しは今よりずっと現実的な手触りで、あなたの前に戻ってくるはずです。

なお、「まず働く」といっても長い空白期間のあとにいきなり一人で求人を探すのは、想像以上に心細いものです。前章で触れた「地域若者サポートステーション」は、就労体験やあなたの状態に合った働き方の相談にも無料で応じています。倒れない働き方を一緒に設計してくれる伴走者として、一度足を運んでみることをご検討ください。

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