40代現場職のための電気工事士試験対策。ノートまとめをやめて最短で合格する方法

番外編/六割で受かる試験に、十割の勉強をしてはいけない

上司に進捗を聞かれた。「順調です」と答えたが、嘘だった。

あの夜、少し腹が立った。取ってくれと言われただけで、業務命令でもない。受験料も工具代も自腹だ。それでも取らないと、来年の配置換えの話に響く。

帰り道、ふと思った。私は何のためにこれをやっているのか。二十年やってきた作業を、紙の上で証明し直すためか。

家に帰って、過去問の冊子を開いた。三年分を並べて眺めていて、あることに気づいた。写真を見て器具の名前を答える問題が、去年も一昨年もその前も、ほとんど同じ顔ぶれで出ている。

よりみちナビゲーターの対話

ケンゴ: その気づきが、この番外編の入口だ。先に前提を確認する。この試験は百点満点で六十点、五十問中三十問の正解で合格になる。つまり、二十問は落としてよい。ここが出発点だ。

アキ: ……いきなり落とす前提から入るんだ。

ケンゴ: そうだ。満点を目指す勉強と、三十問を確実に取る勉強は、まったく別の作業になる。前者は範囲全体を均等に扱う。後者は、確実に取れる問題を先に数える。この方は残り七週間、しかも交代勤務だ。均等に扱う時間はない。

サキ: 具体的に、どこから数えるんですか。

ケンゴ: この方が自分で見つけている。写真を見て器具名を答える問題、いわゆる鑑別だ。ここは毎年ほぼ同じ器具が繰り返し出る。二十年現場にいる人なら、実物を手に取ったことがあるものばかりのはずだ。次に配線図の記号。これも暗記の量が有限で、増えない。この二つで、かなりの問数が固まる。

アキ: 逆に捨てるのは?

ケンゴ: 計算問題だ。オームの法則、電圧降下、許容電流。ここは理解に時間がかかるわりに、出題数が限られている。全部落としても三十問には届く計算になる。もちろん、解ければ取ればいい。だが、七週間の時間配分として最初に手をつける場所ではない。

アキ: ……ケンゴさんの言ってること、たぶん正しいんだと思う。効率としては文句のつけようがない。でも。

ケンゴ: 言ってほしい。

アキ: この人、二十年現場にいるんだよ。電気を扱ってきた人が、電圧降下の計算を「捨てる」って決めるの、私はちょっと怖い。試験には受かるかもしれない。でも本人の中に「自分は逃げて取った」って残らない? 腹が立ったって書いてたじゃん。自腹で、業務命令でもなくて。そこに「捨てる勉強」を積んだら、資格を取ったあともずっと後味が悪いままな気がする。

ケンゴ: 私はその後味を、切り離して考えている。資格は技能の証明書ではない。作業に従事してよいという入場券だ。二十年の技能は、すでに手の中にある。試験はその手に法的な許可を与えるだけの手続きだ。手続きに十割の労力を注ぐ理由はない。

アキ: 入場券、か。

ケンゴ: そしてこれは、逃げではない。合格ラインの構造を読んで、限られた時間を配分する。私はこれを、現場で二十年やってきた人間の判断力だと考えている。全部を均等にやろうとして七週間で息切れするほうが、よほど現場的でない。

サキ: 私はケンゴさんの側に立ちます。理由は違いますけれど。……この方、独り暮らしで四勤二休で、夜勤が月十日なんですよね。範囲を全部やる計画を立てたら、削るのは睡眠しかありません。そうやって二か月走って、仮に落ちたときに残るのは、疲れた体と「あれだけやったのに」という感覚だけです。捨てる範囲を先に決めておくというのは、落ちたときの自分を守る作業でもあるんです。

アキ: ……それは分かる。それは分かるよ。

サキ: それと、実技のほうにも同じ考え方が使えます。この試験の技能試験は、候補となる問題があらかじめ公表される形式です。当日はその中から出る。つまり範囲が有限だと最初から分かっています。

ケンゴ: そこは大きい。実技について、私の案はこうだ。公表されている候補問題を全部、通しで練習する必要はない。まず全問の複線図だけを描く。工具は握らない。紙とペンで、全パターンの配線を描き切る。夜勤明けでもできる作業だ。そのうえで自分が遅い工程──前章で特定したところだ──を含む問題だけ、実際に組む。

サキ: それなら休みが二日しかない週でも回りますね。

ケンゴ: 筆記の配分も出しておく。
残り七週のうち、最初の一週は過去問を三年分、時間を計らずに解いて分野ごとの正誤を記録するだけ。
第二週から第五週は、鑑別と配線記号を毎日十五分。同時に、間違えた問題だけを繰り返す。
第六週で過去問をさらに三年分。
第七週は新しいことをやらない。しっかり眠る。

アキ: 一つだけ、条件つけていい?

ケンゴ: どうぞ。

アキ: 試験が終わったあとで、捨てた計算問題を一回だけ開くこと。合格した後でいいから。そうしたらその七週間は「逃げた七週間」じゃなくて、「順番を変えた七週間」になると思う。

ケンゴ: ……その条件は、私の案より優れている。取り入れる。

シオン: 話を聞いていた。──六割で足りる試験に十割を注ぐことを、真面目と呼ぶ人もいる。だが、真面目さの中身がいつのまにか「不安を消すための作業」に入れ替わっていることがある。マス目を引いた二時間も、破いたノートの一枚も、たぶんそれだった。
何を捨てるかを決めるというのは、何を大事にするかを決めることに近いのかもしれない。捨てた計算問題は、消えるわけではない。試験の外で、二十年の手のほうに戻っていく。

自分に問いかけるロードマップ

  1. 三十問。この数字を先に見たとき、安心したか、それとも落ち着かなかったか。落ち着かなかったなら、自分は何点を取ろうとしていたのか。
  2. 過去問三年分を並べて、同じ器具の写真が何回出てきたか、実際に数えたか。印象ではなく回数で。
  3. 捨てると決めた分野を、口に出して言えるか。言葉にできない捨て方は、ただの先送りになる。
  4. 技能試験の候補問題は、今年度の公表資料で確認したか。去年の記憶で進めていないか。
  5. 「順調です」と答えたあの日、本当は何と言いたかったか。

本日の羅針盤

ケンゴの視座: 合格点は六十点、五十問中三十問。二十問は落としてよい。鑑別と配線記号で固め、計算は後回し。実技は候補問題の複線図を全パターン描き、組むのは苦手工程を含む問題だけ。これが七週間の最短経路だ。

アキの視座: 割り切りは認めます。ただし試験が終わったら、捨てた問題を一度だけ開いてください。それで「逃げた」が「順番を変えた」に変わります。

サキの視座: 捨てる範囲を先に決めるのは、落ちたときの自分を守る作業でもあります。睡眠を削って全範囲を追う計画は、合否の前に生活を壊します。

シオンの視座: 何を捨てるかを決めることは、何を大事にするかを決めることに近い。

参考情報リスト

  • 合格基準および出題数について:一般財団法人電気技術者試験センターが各年度に公表する受験案内・試験実施要領を、必ず受験年度のものでご確認ください。制度改正やCBT方式の導入により、出題数・実施形式・合格基準が変更される場合があります。
  • 技能試験の候補問題公表制度についても、同センターが年度ごとに公表する資料が唯一の正確な情報源です。

※本番外編は短期合格という目的に絞った戦術の提示であり、実務における知識の十分性を保証するものではありません。有資格者として実際に作業に従事される際は、法令および安全基準の確認を別途行ってください。

よりみちナビゲーター

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