サボる同僚・情報漏洩への正しい対処法。感情論を排して「実害の記録」で社長を動かす技術

隣の席が、いちばん遠い ― 見て見ぬふりが染みついた職場で

私は地方都市の小さな設計事務所で、総務と現場調整を一人で担う四十代の男です。図面のことは分からないなりに、業者への支払いや職人さんの手配で、事務所を裏から回している自負があります。

困っているのは同じ島に座る、施工管理の同僚のことです。彼は勤続が長く、専門の資格を持っているので社長も強く言えない。けれど一日の大半、彼の画面には作業とは無関係の動画が流れ、スマホを片手にどこかの誰かと笑いながらやり取りしている。段取りのミスは日常茶飯事で、職人さんから怒りの電話が入るたび、頭を下げるのはなぜか私です。

春先、閑散期に「手が空いているなら見積書の整理を手伝ってくれ」と社長が声をかけました。彼は「はい」と返事だけして、指一本動かさない。私は彼に頼むくらいなら、缶コーヒーを片手に自分で残業したほうが気が楽だと思ってしまう。

何より腹が立つのは、彼が外の人間に事務所の内情を漏らしていることです。同業に飲み仲間が多く、誰が幾らもらっているという類の話まで、面白おかしく喋っているらしい。この前、賞与の査定が終わった直後、彼は露骨に不機嫌な顔でスマホを打ち続けていました。自分の額に納得がいかなかったのか、あるいは私のほうが上だったのか。

職務上知り得たことを、仲間内でならペラペラ話していいものなのか。社長は彼の勤務態度の一部しか知りません。私はこの状況を、どう上に伝えればいいのでしょうか。辞めさせたいわけではないのです。ただ職場が、まともに回ってほしいだけなんです。

よりみちナビゲーターの対話

ケンゴ:まず切り分けよう。あなたの悩みは三つ絡み合っている。①彼の低い労働生産性、②業務上知り得た情報の外部漏洩、③それを見逃している組織構造。
感情としては全部ひとかたまりに「ムカつく」で処理されがちだが、上に相談するならこの三つを分けて話すべきだ。特に②はあなたの「気分」ではなく、「事務所のリスク」として立てられる。ここが交渉の武器になる。

アキ:ケンゴさんの整理、頭ではわかるよ。……わかるけど、私が引っかかったのはそこじゃないんだ。この人、「彼に頼むくらいなら缶コーヒー片手に残業したほうが気が楽」って書いてるでしょ。ここ、しんどいよ。頼れないんじゃなくて、頼ることを諦めてる。その諦めが、体のどこかに溜まってると思う。まず、そこを認めてあげたい。

ケンゴ:アキの言うこともわかる。ただ──諦めを認めるだけでは来月も再来月も、同じ残業が続く。優しさで彼を庇い続けた結果、疲弊するのはこの相談者だ。感情を認めることと構造を変えることは、両輪で回さないと片方だけでは沈む。

サキ:お二人の言うこと、どちらもそうですよね。ただ、私が気になったのは違う一点なんです。
この方、「辞めさせたいわけではない」って、わざわざ書いていらっしゃる。……ここ、すごく人間らしいと思ったんです。本当に嫌いなら、そんな言葉は出てこない。同じ島で何年も隣に座ってきた相手なんですよね。憎み切れない距離感の中で、生活だけは毎朝ちゃんと続いていく。この方が守りたいのはたぶん、「事務所が普通に回り、自分の仕事に集中できる朝」なんじゃないかと。

アキ:……サキさん、それだ。

サキ:だとすると、上に告げ口して誰かを追い詰めるという構図は、この方の本心とはズレるんですよね。望んでいるのは制裁じゃなくて、秩序が戻ることなんですから。

ケンゴ:──なるほど。であれば、上への伝え方も変わってくる。「彼を罰してくれ」ではなく「事務所を守るために、情報管理のルールを整えたい」という提案の形にすればいい。個人攻撃は感情の応酬を生むが、仕組みの提案なら社長も乗りやすい。守秘義務に関する誓約書の再締結や、私用端末の扱いを全員共通のルールにしてしまえば、一人を名指しせずに彼の行動を縛れる。

アキ:それ、賢いね。「あの人だけ」じゃなくて「みんなのルール」にしちゃうんだ。

自分に問いかけるロードマップ

  • 私が本当に上に届けたいのは「彼への処罰」だろうか、それとも「事務所が普通に回ること」だろうか。
  • 三つの問題(生産性・情報漏洩・組織の黙認)のうち、いま最も事務所のリスクとして大きいのはどれか。
  • 「彼一人の問題」として訴えるのと、「全員に適用するルールの不在」として提案するのでは、社長の受け取り方はどう変わるか。
  • 私が背負っている残業の一部は、本当は「私が引き受けなくてよかった仕事」ではないか。

本日の羅針盤

守秘義務について、はっきりさせておきます。従業員が職務上知り得た他人の給与情報を私的に外部へ漏らす行為は、多くの企業で就業規則違反にあたり、社会通念上も許容されません。「友人になら言ってよい」という理屈は成り立ちません。あなたの不快感は、正当なものです。

その上で、進む道は一本ではありません。
ケンゴが示すのは「感情ではなく仕組みで縛る」道――個人を告発するのではなく、情報管理と私用端末に関する全社ルールの整備を社長へ提案する構造的アプローチです。
サキが照らすのは「あなたが本当に守りたいものは何か」という問い――処罰ではなく秩序の回復を望むなら、伝え方はおのずと穏やかで戦略的になります。
そしてアキが指し示すのは、あなた自身の身体――「頼るより一人でやったほうが楽」という諦めが静かにあなたを削っている、その事実です。

まず、事実を時系列で書き留めることから始めてみてください。感情ではなく記録が、あなたの言葉に重みを与えます。

もし職場のストレスによって眠りが浅くなる、朝の足取りが重いといった状態が続くようであれば、一人で抱え込まず、産業医や地域の労働相談窓口といった専門機関への相談もご検討ください。あなたが健やかであることが、何より先に守られるべきものです。

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