第三章 ―親友の幸せと、私の台所は、別々に在っていい
あれから、親友とまた飲みに行きました。彼はやっぱり彼女の話をして、私はやっぱり少し胸が痛んだ。でも前と違ったのは、痛みながらも「よかったな」と、今度は半分くらい本気で言えたことです。残りの半分はまだ羨ましい。それでいいことにしました。
帰り道、スマホを開いて付き合っている相手に初めて自分から連絡をしました。「今度、あの定食屋に行ってみない」と。深い意味はなかった。ただ、自分の声に少しでも温度を乗せられるか、試してみたかった。返事はすぐ来て、「いいね」とだけあった。それを見て、なぜか少し泣きそうになりました。期待していたのか、それとも諦めていたのか、自分でもわかりません。
答えはまだ出ていません。この人とどうするのか、条件で選んだ自分とどう折り合うのか。でも、隣の幸せと自分の生活を無理に比べなくてもいいんだと、ようやく少しだけ思えるようになりました。
よりみちナビゲーターの対話
サキ:いい連絡をされましたね。「定食屋に行ってみない」ってすごく小さな一歩だけど、これは生活の言葉なんですよ。観念じゃなくて、実際に二人で同じテーブルに座って同じものを食べてみる。あなたが自分の温度を測ろうとした、その手触りが私はうれしいです。
アキ:泣きそうになったとこ、私もぐっときた。あれってさ、自分の心がまだ動くんだって確認できた涙だと思うんだよね。よかった、まだここにあったって。半分本気で「よかったな」って言えたのも、すごいことだよ。嫉妬を消そうとしないで、隣に置いておけるようになったんだもん。
ケンゴ:私もこの一歩を評価したい。ただひとつだけ、釘を刺しておきたいことがある。「答えはまだ出ていない」とこの方は書いた。それでいい。だが、定食屋の一回でこの人を好きになれるかを試すという発想には注意が要る。温度は試験で測るものではない。続けるか終えるかの判断は、いつかは要る。先送りと機が熟すのを待つことは、似て非なるものだ。
サキ:ケンゴさんのおっしゃること、分かります。先送りにしてはいけない、というのは本当にそうですね。ただ私は、この方が今やっと「比べなくていい」と思えたばかりなのに、すぐ「いつか判断を」と背中を押すのは少し早い気もするんです。判断のための土台を、今まさに作っている最中ですから。焦らせると、また条件の計算に逃げ込んでしまう。
ケンゴ:……土台を作っている最中、か。なるほど、それなら今は急かす時ではないな。私が見ていたのは少し先の景色だった。
アキ:ケンゴさん、ちゃんと引いてくれるとこ、好きだよ。
シオン:ご本人の話に戻そう──あなたは「隣の幸せと自分の生活を、無理に比べなくてもいい」と書かれた。私はそこに、静かな完成を見る気がする。親友の食卓とあなたの台所。それは比べるものではなく、ただ別々に在るものだ。月がふたつ並んでいても、互いを暗くはしない。あなたが自分の窓辺に自分の灯りをひとつ点せたなら、それで十分ではないだろうか。
自分に問いかけるロードマップ
- 「半分は本気で、半分はまだ羨ましい」。この半々を、無理に片方へ寄せようとしていないか。両方抱えたままでいることはできているか。
- 自分から連絡をして泣きそうになったあの感覚を、私はこの先も大事に覚えていられるか。
- 「答えを出す」ことと「答えを急がない」ことは違う。私は今、どちらの時間にいるのか。
- 親友の幸せを祝うことと自分の生活を整えることは、本当は競い合うものではない。私はそれを頭ではなく、身体で納得できているか。
本日の羅針盤
三章を通して見えてきたのは、あなたが「嫉妬を消す」ことに成功しなかったということです。けれどそれは、失敗ではありません。あなたが手に入れたのは嫉妬を消すことではなく、嫉妬を抱えたまま親友を祝い、自分の生活に小さな一歩を踏み出す力でした。
サキの視点に立てば、定食屋への誘いは観念ではなく、生活で自分の温度を測り直す確かな一歩です。ケンゴの視点に立てば続けるか終えるかの判断は要りますが、それは今日ではなく、土台が整ったその先でいい。
そしてシオンが言うように、親友の食卓とあなたの台所は比べるものではなく、別々に在っていい。隣の月が明るくても、あなたの灯りは暗くなりません。あなたの窓辺に、あなただけの小さな灯りがひとつ点いた――この物語はそこで、ひとつの区切りを迎えます。
なお、もし答えの出ない迷いや自責の念が長く続き、眠りや食事に影響が及ぶようでしたら一人で抱え込まず、専門のカウンセリングなど専門機関への相談もご検討ください。




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