逃げ場は、作るもの。あなたはもう、作り始めている
三回話を聞いてもらって、なんだか不思議な気持ちです。最初は「逃げ場がない、どうしよう」って、それしかなかった。今もしんどいのは変わらないけど、トイレの十五分とか、先生に渡す紙とか、家での数分の避難所とか、自分にできることが少しだけ見えた気がします。
ただ、ひとつだけ正直に言うと――こんなに頑張らないといけないのって、私だけなのかなって思うときがあります。普通の子はこんなこと考えなくても、家でも学校でも普通に過ごしてるのに。なんで私だけ、こんなに工夫しないと生きていけないんだろうって。
よりみちナビゲーターの対話
アキ:……その一言、いちばん大事なこと言ってくれたと思う。「なんで私だけ」って。それ、ずっと飲み込んでたんじゃない?
サキ:ええ。三章ぶん、ずっと「対策」の話をしてきましたよね。でも、その根っこにあったこの気持ちを、最後にちゃんと伝えてくれた。これはすごく誠実なことだと思います。
ケンゴ:正直に言う。「あなただけじゃない」と言うのは簡単だ。だが、それは慰めとしては弱い。だから私は、別の角度から言いたい。――あなたが今やろうとしている工夫は、多くの大人が四十を過ぎてもできず、潰れていくことだ。
アキ:え、どういうこと?
ケンゴ:私は管理職として、心を病んで現場を去る大人を何人も見てきた。彼らの多くは優秀で、真面目で、我慢強かった。だが、「事実を誰かに渡す」「逃げ場を自分で作る」ということができなかった。一人で抱えて、限界まで黙って、ある日いきなり折れる。あなたが十四歳でやろうとしていることは、その人たちができなかったことだ。だから「なんで私だけ」じゃない。「あなたはもう身につけている」だ。
サキ:ケンゴさん……それは、本当にそうですね。
アキ:でも――ケンゴさん、私はやっぱりひとつ言わせて。
ケンゴ:聞こう。
アキ:「あなたは強い、できてる」って言うのは、すごく勇気をくれる。でも、この子はまだ十四歳で、本当はこんなスキルなんて身につけなくてよかったんだよ。普通に親に甘えて、普通に学校をだるがって、それでよかった。工夫できてすごいの前に、「そんな工夫をしなくて済む環境じゃなかったこと自体がおかしいんだよ」って、私は言いたい。
ケンゴ:……ああ。そこはアキの言う通りだ。私は「できている」と励ますあまり、「できなくてよかったはずだ」という前提を飛ばした。すまない。本人のせいでこうなったわけでは、断じてない。
サキ:お二人とも、どちらも本当ですよね。「あなたはもう力を持っている」ことと、「そんな力を使わずに済む環境であるべきだった」こと。両方を、同時に抱えていていいんです。
シオン:長い対話だった。最後にひとつだけ。――「なんで私だけ」と、あなたは問うた。けれど、その問いを口にできたこと自体が、すでに一つの避難所かもしれない。誰にも言えなかった気持ちを、こうして言葉にした。言葉にできた苦しみは、抱えたままの苦しみよりほんの少しだけ軽い。あなたは三度、ここで言葉にした。それは外から見えないところであなたがもう歩き始めている証だと、私は思う。
自分に問いかけるロードマップ
- 「なんで私だけ」という気持ちを、誰かに(あるいは紙に)出してみたら、少し軽くなった?
- 三章を通して見つけた小さな避難所(十五分・紙・数分の音楽)のうち、明日いちばん最初に試せそうなのはどれ?
- 「工夫できてすごい」と「工夫しなくてよかったはず」、今のあなたに近いのはどちらの気持ち?
- 一年後の自分に、今のあなたから一言かけるとしたら何と言いたい?
本日の羅針盤
四章を通して、あなたの相談は静かに姿を変えてきました。
最初は「家にも学校にも逃げ場がない」という、出口のない部屋の話でした。それが今は十五分のトイレ、先生に渡す一枚の紙、家での数分の避難所、児童相談所や子どもSOSダイヤルという外部の窓口――いくつもの小さな扉に変わりました。
最終章でケンゴは、「あなたはもう、大人でも難しい力を持っている」と言い、アキは「そんな力を使わずに済む環境であるべきだった」と返しました。この二つは、最後まで一つにまとまりませんでした。まとめなくていいというのが、この連載の結論です。あなたは強い。同時に、こんなに頑張らされるべきではなかった。その両方を、両手に持っていてください。
そしてシオンが最後に置いた言葉――「なんで私だけ」と言葉にできたこと自体が避難所だという一言を、どうか覚えておいてください。
あなたは逃げ場を、「もらえなかった」のではありません。あなたは逃げ場を、「作り始めた」人です。トイレの十五分から、それは始まっていました。
体の震えや眠れない夜が続くなら、それは気の持ちようの話ではなく、あなたの体を守る話です。専門機関への相談もご検討ください。電話がこわければ、文字でつながれる窓口もあります。一人で抱えなくていいのです。
ここまでありがとうございました。あなたの作った小さな避難所が、これから少しずつ増えていくことを、編集部一同願っています。
参考情報リスト
- 24時間子供SOSダイヤル(文部科学省): 0120-0-78310。子ども本人が無料・24時間相談できる窓口。
- 児童相談所相談専用ダイヤル: 0120-189-783(いちはやく・おなやみを)。家庭で安心して過ごせない状況を、子ども本人からも相談できる全国共通の窓口。
- 文部科学省「子供のSOSの相談窓口」: 電話のほかSNS・チャットでの相談先を案内するページが文部科学省サイト内にあります。




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